序章

狂い始める人生 01



 どこかこことは違う宇宙の銀河、【ユーロ銀河】。


 しかし、こことは違うと言っても人類の営みに変わりはなく、星系ごとに国家を作り、そこで人々は生活していた。そして、愚かさも変わらず人間同士で争い続けていた。


 その国家の一つ【ガリアルム王国】が、この物語の主人公“ルイ・ロドリーグ”の祖国である。


 彼は机に向かい小説を書くためにパソコンのキーボードを叩く。


 <クオンの号令とともに、兵士達の銃が一斉に火を吹いて、敵兵士達の死体の山を築いた。辺りに漂う硝煙の匂いを嗅いでクオンは「やはり、硝煙の匂いは格別だ……」と>


 ルイはパソコンにそこまで文章を書く。


「<やはり、硝煙の匂いは格別だ……>は、ないかな~。これじゃあ、カッコイイ台詞というより、戦闘狂って気がするな……」


 だが、このような感想をひとり呟いてから、先程の台詞を消去する。


 彼は【ガリアルム王国】の名門貴族の子息であるが、この時代の貴族は特に【ガリアルム王国】の貴族はほぼ名誉職であり、領地なども余り与えられていない。この国で五指に入る名門貴族の彼の家であっても、贅沢をしなければ働かずに済むくらいの収入しかなかった。


 だが、それはあくまで親の収入である。そのため彼は、その財産を受け継ぐまでに何か職に付いて給料を得なければ、自由な買い物も出来なければ結婚もできない。


 そこで、彼が志した職業は小説家で合間を見ては、昔から好きだった戦記物を題材とした小説を執筆し、出版社に送っているのだが出版には至っていない。


 ルイはパソコンのモニターを見つめながら、小説のアイデアを考えているとふと自分の今の状況をつくりだした過去を思い出してしまう。


 それは彼が14歳の時に、父親からこの様な事を言われた事から始まった。


「お前も知っている通り、我がロドリーグ家はこの王国で五指に入る名門であるが、正直財政はそれほど豊かではない。十年前から領地で初めたマンション経営も立地が悪いのか、あまり上手くいっていない…。経年劣化の修繕費やその他経費で思っていたほどの利益が出ず、駐車場の方はそれなりだが……」


 ルイは、14の子供に何を聞かせているのだと思いながら、父親の話を聞いている。

 父親は咳払いをすると話を続けた。


「まあ、つまり贅沢をしなければ家族3人と使用人2人分の給料とこの屋敷を維持できるぐらいはあるが、お前がバイクや車を望んでも買ってやれないし、結婚した時の支援もしてやれない…。そう、お前は自分の欲しい物を手に入れるために、自分で稼がなくてはならない。一般課程の学業を卒業する15歳までに、将来進む道を考えて進学先を決めなさい」


「それって、つまり……」


 つまり、父親は家が財政難なので、ルイに大人になったら働けというのであった。


 普通なら当然の話なのだが、大抵の大貴族の子息・息女は何だかんだと不労所得で高等遊民として暮らすことができる。


 特にルイのような名門大貴族ならば……。


 だから、彼も大好きな小説でも書きながら、優雅に過ごそうと思っていた……。

 なので、父親の話は彼の人生設計を大きく変えるモノであり、ルイは軽い衝撃を受ける。


 だが、いつまでも衝撃を受けてはいられない。

 ルイは15歳までに、自分の将来を決めなくてはならなくなった。


 とはいえ、答えは決まっており高等学校に入り、その後大学に入って公務員になれば安心安泰である。


 ルイはその考えを父親に話そうとした、まさにその時――

 父親は彼にこう言ってのけた。


「あっ、そうそう。私としては一般課程を卒業した後は、士官学校に入ることを勧めるぞ。なにせ、学費が一切かからんからな! 学費を稼がずに済むぞ、ガハハハ!」


 この国の五指に入る名門貴族とは思えない、父親の“学費なんて払わないぞ“発言にルイは愕然とする……。


 つまり、この父親は始めから学費の掛からない士官学校という選択肢しか与えないつもりだったのだ。


(それだったら、始めからそう言えよ! というか、この家どれだけ金がないんだ… この家本当に名門貴族なのか……?)


 14歳のルイには父親に対して、心の中で悪態を付くことしか出来なかった。


 貴族の息子として育った彼には、勉強しながら頑張って学費を稼ぐという選択肢は選べずに、士官学校に入学するしか無かった。


 もちろん、奨学金制度はこの国にもあるが、腐っても名門貴族の子息である彼が、それを受けるのは世間体が悪いと父親が反対してくるのは火を見るより明らかであったからだ。


 こうして、ルイは15歳の時に士官学校に入る事になり……


「あっ、これなら学費を稼ぎならの状況と余り変わらなかったぞ……」


 士官学校の厳しい訓練を受けて、この真実に気付くことになり自分の情弱ぶりを恨むのであった。


 そして、彼はその厳しい訓練の中でこう考えるようになる。


(僕には、軍人なんて絶対務まらない。絶対任期が過ぎたらやめてやる! そして、まずは安心安泰な公務員になって、それから小説家を目指してやる!)


 堅実な性格の彼はまず公務員になることを決めて、それから夢だった小説家の夢を目指そうと心に誓い、士官学校での暮らしに耐えるのであった。


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