第25話 無条件で殺されるストーリー

「で、その後はどうなったわけ?」

「昼休み終了のチャイムが鳴って、勝負は持ち越しだな」

「そう」

 横で体育座りする体側服姿の三崎は言うなり、とある方へ目を移す。

 午後に入り、俺のクラスは皆、体育館にいた。

 適当なチームに男女混合で別れ、バスケの試合をしており、俺と三崎は待っている側だった。なので、壁際に座り、目の前で行われているクラスメイトらによるバスケの攻防を見ている。

「とりあえず、よかったけど」

「何がだ?」

「志穂が死ななかったことよ」

 三崎は言うなり、俺らとは斜め向かい側の方へ顔を動かす。

 先には白瀬がおり、他の女子らと楽しそうに談笑をしている。クラス委員長で皆から人気があるだけあって、普段は常に中心にいるといった感じだ。

「あたしだって、志穂の友達だから」

「何が言いたいんだ?」

「別に。昼休みに志穂とそういうことしてるなんて、それで、志穂が死んだりしたら、あたしは真っ先にあんたを殺すから」

「だよな」

 俺はため息をつくなり、丁度ゴールを決めるバスケ部員の男子に目をやる。運動が得意な奴はこういう時、どことなく羨ましくなる。

「そういえば、三崎もこういうの得意だったよな」

「そうね。成瀬と違って」

「俺は別に、ぼっちだから、そういう運動系のは苦手でも特に気にはしないけどな」

「そう? 運動って、ひとりでもできるし、そういうスポーツだっていくらでもあるんだから、そういうのをやってみてもいいんじゃないの?」

「いや、俺はインドアだからな」

「それ、単なる言い訳よね」

「知るか」

「そう思うと、志穂は何で、こういう成瀬を好きになったのか、理解できないわね。殺したくなるくらい」

 三崎はつまらなそうな調子で声をこぼし、バスケの試合を見続ける。得点の液晶パネルを見れば、結構接戦になっており、後は時間との勝負といったところだった。

「それに、志穂はあたしのこと、今のクラスになって初めて知ったんでしょ? そしたら、もう、志穂は小学校の時に会ったあたしのことは覚えてないか、それとも」

「男子と思って、別の人物と思ってるかってことだな」

「こうなったら、あたしから言うしかないってことよね」

 気が重そうな口振りの三崎。

「ところで、成瀬は知らないと思うけど」

「何がだ?」

「志穂、今朝男子に告られたみたいよ。まあ、『好きな人がいるから』とかの理由で断ったみたいだけど」

「そっか」

「あんたね、他人事みたいに言ってるけど」

「いや、他人事じゃないのはわかってるけどさ、何だ、そこまで俺と付き合いたいっていうのはさ、どうかと思ってさ」

「あんた、そんなこと、周りにいるクラスメイトの男子らに知られたら」

「わかってる。第一、俺はそういう面倒事はごめんだ。それだからさ、白瀬の告白は断りたい」

「けど、断ると、志穂は命を投げ出す、で、それを知ったあたしは」

「俺を殺そうとするんだろ?」

 俺が付け加えると、三崎は顔を両膝に埋める。

「こうなったら、成瀬を殺して、悲しみに暮れて、死のうとするかもしれない志穂をあたしが何とか救ってあげることをやってみるしかないのかな……」

「おい。それってさ、無条件で俺が殺されるストーリーだよな?」

「当たり前でしょ?」

 顔を上げ、平然と言ってのける三崎に、返す言葉がない俺。

 と、得点の液晶パネルから試合終了を告げる電子音が鳴り響く。

「ほら、成瀬。次よ、あたしたち」

「わかってる」

 俺は返事をして、腰を上げる。

 一方で先に立ち上がっていた三崎は先にコートへ入っていく。

 同時に、斜め向かいから白瀬も現れ、三崎と会うなり、声をかける。

 で、遠くにいる俺に対しても視線を送ってきて、軽く手を振ってきた。

 ぼっちの俺は余りではなく、誘われた白瀬と同じチームで、対戦相手は三崎がいるチーム。

 行った試合結果はぼろ負けだったけど、白瀬は終始、楽しそうだった。まあ、好きな俺とコートにいられたからな。

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