第21話 悪夢

「成瀬くんはわたしのことが嫌いなんだね」

「えっ?」

 俺は気づけば、学校の最寄り駅にあるホームに立っていた。

 で、目の前には制服姿の白瀬。悲しげな表情をしている。

「わかってはいたけど、現実として、はっきり断られると、やっぱりきついよね」

「ちょ、ちょっと待て。俺、白瀬に何を言ったんだ?」

「成瀬くんは自分の言ったことをもう忘れたのかな」

 白瀬は俺に呆れたような眼差しを送ってくる。

「成瀬くんは、わたしの告白を断ったんだよ」

「ウソだろ?」

「本当だよ」

「いや、何かの誤りだ。俺は一言も、白瀬の告白を断ったりなんか」

「どうして、そういうことを言うのかな?」

 白瀬は目を合わせたまま、俺に詰め寄ってくる。

「じゃあ、断ってなければ、成瀬くんはわたしの告白にどう返事をするのかな?」

「どうってさ……」

「答えられないんだね」

 白瀬はがっかりしたような表情を浮かべると、何歩か後ずさり、距離を取る。

「成瀬くんは」

 瞬きをした白瀬は真っすぐな瞳を俺の方へ向けてくる。

「わたしの告白を断ったら、どうなるか、知ってるんだよね?」

 白瀬の言葉とともに、ホームの音声自動案内が流れる。

「まもなく、電車が通過します」

 白瀬は一歩下がっていく。

「おい、やめろ」

「成瀬くんにはがっかりだよ」

「よせ、やめろ」

「幼稚園から高校一年まで、ずっと同じクラスだったのに」

 さらに下がる白瀬。

 だが、既にホームの端っこまで着いており、先には線路しかない。

 周りには電車が近づくことを知らせる警告音が一定間隔で鳴り響く。

 と同時に、ホームの奥から、電車が向かってくる。警笛を出しつつ。

 白瀬は動こうとしない。いや、違う。電車が迫ってくる寸前に、飛び込む気だ。

 助けないと。

 だが、なぜか、俺の体は接着剤で足とホームがくっついているかのようにびくともしない。

 何とか、動く手を伸ばし、白瀬の体を掴もうとするが、わずかに届かない。

 一方で、白瀬は片方の袖を捲り、リストカットの跡がいくつも残る手首を見せつけてくる。

「こういうのもようやく終わりだね」

「いや、終わりとか言うな。というか、死ぬな!」

「さよなら、成瀬くん」

 電車の警笛が長く続く中、白瀬はさらに後ずさるなり、線路へ落ち。

 すぐに目の前を電車が突っ込んでいった。

 ホームドアがない駅を通過しようとして。

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