異世界から帰ってきたネコミミts少女は俺の幼馴染
安太レス
第1話 帰還
それは一本の電話から始まった。
そして止まっていた時が動き出すーー。
俺は眼を覚ました。
目覚まし時計のけたたましい音もなく、誰かに起こされたわけでもない、静かで自然な目覚めだった。
寝ていたのは自宅の居間のソファの上。いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
「んん……」
ようやくぼんやりしたままの頭をあげて壁の日めくりカレンダーをみると八月二十三日が表示されている。
あの日めくりカレンダーを昨日めくることを忘れていたのを思い出した。
ということは……つまり今日は二十四日だ。
まだ明晰でない頭でさらに考える。
夏休みもあと一週間で終わり。
この一ヶ月ですっかり怠惰な習慣が身についてしまった。
なぜならカレンダーの横の壁かけ時計は午前十一時半を表示していたからだ。
窓の外から部屋にかんかんの夏の日差しが容赦なく差し込んでいる。
外の気温はぐっと上がってきている。
もう一ヶ月近く、毎日三十度を超えていてテレビや新聞では記録的猛暑と騒いでいる。
猛暑真っ盛り。熱中症に注意。水分の補給をこまめにしましょう。
だが、それでも心地よく居眠りできていたのは、部屋のクーラーが元気に働いているせいだ。
部屋に、エアコンの音が静かに響くのが聞こえる。
二十六度に設定された室温はうたた寝するには心地よい環境を作ってくれている。
また寝そうになる衝動を堪えて体を起こした。
「さあて……今日は何しようか」
寝正月ならぬ寝夏休みにも飽きてきていたところだ。
始業式に向けてそろそろ起きる習慣をつけておかないといけないという気持ちもある。
「よっこいしょ」
立ち上がったところで、はたと困った。
せっかくやる気になったところだが、これといってすることがない。
「掃除でもすっか……」
俺は通っている中学で、部活動をやっていないため、ひたすら休暇つづき。クラスメイトとどこかへ遊びに行く企画を思いつくような甲斐性もない。
ひたすら家でだらだら。この夏休みはすっかりだらけきった生活を送ってしまった。
とはいえ時間だけは沢山あったので、膨大にあった宿題、課題の類は夏休みに入ると同時にさっさと片付けた。
三十一日に宿題を慌ててやる……なんて漫画みたいなお約束なこともない。
あとは九月一日の始業式を迎えるだけ。
そして昨日の夜。正確に言う今日だが、ネットと深夜番組をみて、そのままだらだら起きていたので、寝たのは明け方だった。
そして朝七時半に一旦起きた。
起床は早かったのだが、一通り朝のゴミだし、洗濯を終え、朝の番組をチェックしたあとは、やることもなく、そのまままたソファで転寝していた。
再びテレビのリモコンのスイッチで電源を入れる。
ちょうどニュース番組だった。
「先週から現れたアザラシをみようと多くの人だかりが川縁へ……」
「黒浜動物で産まれたパンダの赤ちゃんの名前がもうすぐ発表されます」
退屈なニュースばかりだ。
また部屋の掃除でもするか。
テレビを点けっぱなしにしたまま押入から掃除機を出そうとした。
まだ新しい42インチ大液晶画面は、誰も聞いていないニュースを流し続けていた。
『連日猛暑が続いており、本日も朝から三十度を超える気温を各地で観測しております。海水浴場も涼しさを求める家族連れで賑わっており、海の家や海沿いの店は大賑わいを見せております。各地の様子を映像と共にお届けします』
にこやかにニュースを伝えるキャスターの顔。
『つづいての、ニュースをお知らせします。本日政府は、アースランド界との交流五周年を記念しての祝賀記念式典を予定どおり催すと発表しました。反発も予想されており……』
「ん……ふわあああ」
また大欠伸が出た。
と同時に空腹を覚えた。そろそろ昼にさしかかる時間だ。
「そういや、朝にパン一個を食べたきりだったな」
(そろそろ、何を食べるか考えないと……)
ようやく目覚めた頭で考えを巡らせた。
一人の生活を続けていると、こういう時、面倒だから、食べないという選択肢が浮上してくる。
動くのも考えるのも面倒だからやめる。
空腹は適当にジュースやお菓子を摘んで夕食までごまかそうか。
台所をチラリ見ると農家をやっている親戚が差し入れた野菜が段ボールに山となって積まれている。
だがところどころ痛み始めてしまっている。
「一人じゃ食いきれないよ……」
両親が海外出張となり、一人この家にとどまることになった際に、俺は自炊をしてインスタント食品やレトルトは食べないし、きちんと三食しっかり食べると誓い約束した。
が、その約束は一ヶ月持たなかった。
規則正しく1日3食食べるということが、必ずしも人間に刻み込まれた習慣ではないことを身をもって知った。
この半年近い一人暮らし生活で発見したのである。
段ボール箱の野菜はすっかりしなびていた。
いいわけをすると、何度かは気持ちを改め、規則正しい食生活をしようと思った。
だが繰り返し襲ってくる無気力感に今度も逃れられなかった。
食生活だけでなく、夏休みとなった今は、昼夜逆転の生活になりつつあった。
自分のこの無気力病はどこからくるのだろうか。
「ま、いいか。戦国時代は1日2食だったって聞くし」
信じられない―ー食べることが好きなクラスメイトの秋菜によく言われることだ。
気温が上がってきたのか、クーラーの効きが悪くなってきた。
設定温度を下げようとリモコンを手に取ろうとしたその時だ。
ジリリリリリリ―
突然自宅の固定電話がけたたましく鳴り響いた。
ジリリリリリ――
何度も何度も鳴り響いているのをみるとどうやら、あきらめずにかけ続けている。
いや、むしろ俺がここにいるのを確信していて、俺が電話に出るのを待ち望んでいる。
そんな気がした。
「一体誰だ?」
恐らく、高校や中学の友人や知人関係ではない。
一応俺はスマホを持っているので、そちらにかけてくるはずである。
ジリリリリ――
「わかったよ、でるよ」
一度伸びをしてから、ゆっくりとソファから立ち上がり、固定電話の前まで行き、画面を見る。着信番号を見ると、公衆電話からの発信だった。
(珍しい発信源だな)
勧誘かなにかの類の可能性が高ければ、そのまま居留守を決め込むつもりだったが、ゆっくりと受話器を取った。
そして耳にあてる。
―はい、原山ですがー
―あ、修ちゃん!?―
その声に寝ぼけていた頭が一気に冴え渡っていく。脳にある記憶を凄い勢いでシャッフルされていく。こいつは……この声の主は……。
―修ちゃん、ボクだよ―
受話器の向こうの声を聞くとより記憶がはっきりとよみがえってくる。
俺はこの声の人物を知っていた。
「その呼び方……まさか……」
「ふふ」
記憶を取り戻したような反応をすると、声の主が笑った。
「お、お前……か?」
声の主がようやくわかった俺は、胸がいっぱいで、言葉が出てこなかった。
―ボクだよ、椋だよ。たった今帰ってきたところなんだ―
代わりに、そいつが、はっきりとその名前を口にした。
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