第80話ファミレスっていいよね

 やっとの思いで数日間に渡る期末テストが幕を閉じた。

テストが終わった開放感。なんとかやりきれた達成感。

さらに言えば最終日は午前で学校が終わるのだから、羽を伸ばさずにはいられなかった。


「綾香ー、飯いこう」


「いきましゅ!!!!!!!!!!!!!! 私もそう思ってました!!!!!!!!!!」


 イヴの声掛けに綾香は犬のごとく尻尾をブンブン回して喜ぶ。

せっかくだからとイヴはグルチャに連絡をいれると、このあと飯に行ける面子を募集した。


「ぁ、ぁにょ……ゎ、ゎたしも行って……いいかな?」


 指をもじもじさせながらやってきたのは同じクラスの美里だ。

以前人見知りを発動をしてはいるが、美里から進んで声をかけてくるのは珍しいことだ。


「勿論いいぜ。あとの二人は来るかな?」


 綾香のモノを見定めるような視線が美里に刺さる。

その視線に気づいた美里も小さくなりながら、イヴと綾香を交互に見ている。


(美里さん……いつもイヴの前でもじもじしてるけど、イヴに気があるのか???? おん、お前もライバルか????)


(何でそんなガン見してくんだよ、おかっぱ……そんなんだからいつも凛ちゃんと喧嘩になるんだよ……)


「美里さんはさ」


「ぇ、な、なに?」


「イヴのこと好き?」


(いきなり何を言ってるんだコイツは???)


 もじもじしていた手が止まる。

しかしながら美里の顔は――乙女なものではなく、真顔になっている。

 そこで思いつく言葉。

たぶん――こういったらイヴはこう返してくれるのだろうなという言葉を口にする。


「き、きらい……」


「俺は好きだよー」


 やっぱり言ってくれたと美里の顔は少しばかりニヤっとしてしまう。


(キライ……なのか? え、でも、じゃぁなんでつるんでんだ? まぁ、恋愛感情はなさそう……か)


 とりあえず恋敵ではないと答えを出すと、綾香は刺さるような視線を元に戻した。


「ぁ、ぁやかしゃんは……どうなの?」


「勿論!!!!! 私は!!!!!」


 仁王立ちして叫ぶ綾香。


「イヴのことが!!!!!」


「お、凛もちーちゃんも来れるって。じゃーイツメンで飯だな」


「最期まで言わせてくれる?!?!??!!?!?!!??!」


「ほら、みーちゃんいくぞー」


「ぅ、ぅん……っ、ついてくね……へへ」


 独りで盛り上がっている綾香を置いてイヴが教室から出ていく。

えへへへと笑う美里もその背を追って扉を出る。

 一人残された綾香は何故か敗北感を味わっている。

悔し涙を流し、拳を握り。

凛とはいくどとなく争い、勝利も敗北も経験してきたが、これはまた違った敗北の味がする。


(でも、綾香ちゃんは諦めません! いつかイヴにウェディングドレスを着せるまでは!!!!!)


 諦めきれない夢の炎が燃える。

また一人で盛り上がると、綾香は全速力で二人のあとを追いかけた。



 凛と千鶴も合流すると全員で近くのファミレスへと足を運んでいた。

店内にはイヴたち同様にテスト後の開放感を楽しむ学生たちで賑わっている。


 イヴが奥に座った瞬間、凛と綾香が隣の席に腰を下ろそうと二人して身体を寄せ合わせる。


「ちょっと凛さん、邪魔なんだけど」


「それは綾香ちゃんでしょ♡ 綾香ちゃんは他のテーブルいっていいよ♡」


「また二人してそんなこと言って」


 構わずイヴの対面席へと腰掛ける千鶴。

そんな様子におろおろとして腰を下ろさない美里。


「みーちゃんこっちおいで。俺の隣座んな」


「ぃ、ぃいの?」


「「なんで!?!?」」


 こういうとき凛と綾香の息のあいようと言ったらない。

最高にハモった二人の声。そして美里が恐る恐るイヴの隣に座ると、二人は同じ表情で悲しんでいる。


「ほら、二人ともこっち座ろう?」


「ちぇー」


「よりにもよっておかっぱの隣かよぉ……」


「嫌ならかえっていいよ凛さん」


「おかっぱが帰れよ♡」


「みーちゃん何頼む? 俺とりあえずドリンクバーとパスタにしようかな」


「ぇ、ぇぇっとぉ……」


 メニューを広げるとイヴと美里は顔を寄せ合って何を食べようかと選んでいる。

一見すれば極々当たり前の光景であるが、凛と綾香にとっては羨ましくて仕方ない光景である。


(ぐぬぬぬぬぬぬ、ロリビッチさえいなければ……!!!)


(あーあー、おかっぱいなけりゃあたしが隣にいれたのになぁ)


「二人は何にする?」


 千鶴も同じようにメニューを開いてみせるが、凛と綾香は決して顔を近づけようとはしない。

もし近づいてしまえば、お互い今にも噛みつきそうな態度だ。



 それぞれが注文した料理を口にしながら、言葉が交わされる。

交わされるのは主に夏休みの話題であった。

これほどの長期間の休みはない――。

それに夏といえばイベントは目白押しだし、この時期にしか出来ないことも数多ある。


「そういえばさ、前にうちの別荘の話したじゃない?」


 切り出しのは綾香だった。


「あー、言ってたね。行ってもいいんだっけ?」


「うん、ママがOKだしてくれたから大丈夫」


「ぁぁゃかしゃん……別荘なんてあるんだ……しゅごい……」


「あ、ただうちの別荘黒髪の女子禁止なんだ。だから、凛さんごめんね」


「てめーも黒髪だろうが♡ ぶっとばすぞ♡」


「俺も地毛は黒だけどな」


「あ、黒髪でも大丈夫でした」


「おいこら♡」


 綾香の話によれば別荘は海辺の近くにあり、さらにいうと周囲にはホテルなどもなく存分に海を満喫できる場所にあるらしい。

そして海というワードを聞けば、当然たどり着くのが水着の話題であった。


「水着かー! いいな! 俺スク水しかないから新しいの買っとくわ」


「私もスク水しかないな……私も一緒に買いにいこうかな」


「おう、じゃ、ちーちゃん一緒に買いにいこうぜ」


「スク水のイーちゃんんも見てみたいけどな♡」


「ぁ、ぁにょ……それって……ゎゎたしも参加……していいの?」


「勿論いいよー。あ、でもうちの別荘五人用だから、凛さんは野宿でもしてね」


「上等だコラ♡ キャンプ用品フルに持ってって浜辺で寝てやるよ♡」


「凛キャンプ用品なんて持ってんの? 面白そう」


「パパが最近趣味ではじめたんだよ♡ イーちゃん凛とキャンプの中で寝る?♡」


「それもいいかもなー」


「あ、ごめんやっぱ6人まで大丈夫だから、凛さんもいいよ」


「死ねよおかっぱ♡」


 凛たちのやりとりをよそに、千鶴はスマホをいじると今トレンドの水着を検索している。

肌の露出の多い際どいラインナップから、肌色を抑えたものまで数多の種類が存在する。


「美里さんは水着持ってる?」


「す、スク水なら……」


「じゃぁ、美里さんも一緒に買いに行こうよ」


「ぅ、ぅん、ぇぇへへへ……と、友達と水着買いに……行くにゃんて……はじめて」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る