第77話罰ゲーム大会
まるで仕組まれたような内容の罰。
綾香は顔を赤くしながら震える手で罰ゲームのカードをテーブルに置いた。
「こ、これが……罰……」
「わ♡ パンツの色を言うだって♡ ほら、さっさと言えよおかっぱ」
「や、やっぱり凛さん仕組んだだろ! 絶対なにかやったでしょ!!!」
「やってないよ♡ おら、さっさとパンツの色を公の場で晒せよオラ」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ!!!!……く、黒……」
なんという羞恥プレイをさせられているのかと、綾香の顔は今にも燃え上がりそうだし、その目ははてしなく潤んでいる。
「ぁ、ぁやヵしゃん……か、顔に似合わず……せくしぃなの、履くんだ……へへ」
「ちょっと美里さん、その言い方やめてよ!!! もういいから、はい次次!」
早く自分の番を終わらせようと綾香はカードを引く。
しかし、そこに出た数字は――1である。
(う、うそだろおおおおおおおおおおおおおおお?!?!!??!?)
引いた瞬間に絶望する。これでは負けは確実である。
「あ、あのさ……1って結構強かったりする?」
「なわけねーだろ♡ 一番小さい数字だよ♡(ってことはおかっぱは1か)」
凛だけでなく、その場にいた全員が綾香が1を引いたのだろうなと思う。
イヴ、千鶴、美里、凛もカードを引く。
イヴ、千鶴は余裕そうな表情をしているが、残り二人の表情が――徐々に青ざめている。
引いたカードを見る。
凛、2。
美里、1。
(2だと!?!??!!?!?? 苦ッ、これはまずい!!!)
(あわわわわわわわ、い、いち……!!!! あ、綾香しゃんとお、おんなじ!)
「じゃー発表する?」
カードをひらひらさせながらイヴが言う。
しかし、綾香も凛も美里もこれで勝負に出られるはずなどない。
「ま、まって! ひ、引き直しする……」
持っていたカードを捨てるとカードを引き直す。
もしここでいいカードが出なければ――もし、また最下位のカードならば罰ゲームが二倍になって跳ね返ってくる。
ましてや凛がもってきた罰ゲームである。どんな内容が書いてあるかなど、想像もしたくはない。
「凛も引き直す!」
「ゎ、わたしも……」
それぞれの手元に新たなカードが引かれる。
(……!)
(こ、これならなんとかなるか……)
(ぇ、ぇ、こ、これ強いの、かな……?)
引き直したにも関わらず美里の表情は明るくならない。
それを見た凛も綾香もとりあえず自分は最下位にはならないだろうなと考える。
これならば勝負に出れると確信すると、互いの視線がぶつかり火花が散らされる。
「じゃぁいくよ……最下位……」
「「だーれだ!!!」」
結果。
イヴ、10。
千鶴、11。
凛9。
綾香12。
そして――あわあわとしながらカードを出せずにいる美里。
「あ♡ 罰ゲームはみーちゃんかな?♡」
「ぇ、ぇと……ぁにょ……」
もう安心しきっている凛は優しく美里のカードを出すように促す。
「ほら、大丈夫だから♡ カードを出してごらん♡」
「ぇ、ぇっと……こ、これ、強い……ですか?」
カードには――ピエロが笑っている。
美里、ジョーカー。
「……なっ、じ、ジョーカー!?!?!!??!?!?!?」
「ジョーカーなら一番強いんじゃね?」
イヴが追撃を打つ。
「ぇ、ぁ、ほ、本当? ょ、ょかった……へへ」
「そうだね……通常のトランプならジョーカーは一番強いよね……そして当然このゲームでもそうだよね……ねぇ、凛さん???」
ゴゴゴゴゴゴ――……。
恨みつらみを背負った綾香の気迫迫る表情。
汗水が止まらなくなる凛。
「ジョーカーが一番強い。常識、ですよね。そうでしょう……最下位の凛さんよぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!!!!!」
「い、いやああああああああああああああああああああああ!?!!??!!?!」
「そして!!!! 凛さんの倍満罰ゲームはこれだあああああああああああああ!!!!!」
ピシャリ音を立てて、綾香が罰ゲームのカードを引く。
書かれていた罰ゲームは、
二倍になることになってしまった罰ゲームの内容は
『一番強い人にキスをする』x2
「くそ……くそ……一番強い人……みーちゃん、悪く思わないで。優しくするから……」
ガッと凛の両手が美里の頬を抑える。
「ぇ!??! ちょ!?!?!?!?! これ私も被害者じゃない?!!!?!?!?? え、ちょ、まッ……!!!!!!」
ぶちゅううううううううううううううううううううううううううううううううう。
一回離して深呼吸。
「みーちゃん、イクよ……」
「んんんんんんん」
ぶちゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう。
「んんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!」
(ごめん、ごめんよみーちゃん……でも、みーちゃんのほっぺも唇もやわらけー♡)
暴れていた美里が、やがて動かなくなる。
初めてのキス。まだ誰にも奪われたことのない初めてがこんな形になるとは、思いもよらなかった。
(わ、私のはじめてが……は、はじめてのチューが……)
凛の唇が離れると、骨抜きにされた美里は背もたれにだらしなく身体を預けている。
ビクビクとする身体。顔も身体も全身が火照ると、その余韻がいつまでも残っている。
凛の唇はちょっとだけ甘い味がして、ちょっとだけいい匂いがしていた。
「みーちゃん悪く思わないでおくれ……これは罰ゲームだから……」
袖で唇をぬぐいながら、同じく涙を流す凛。
「ぃ、ぃぃょ……ら、らいじょう……ぶ……らから……」
「全然だいじょーぶに見えねーよ」
やっとイヴが突っ込む。
なんだか楽しくなってきてしまったイヴはもうすでに次のカードを引いてる。
千鶴もカードを引き、綾香、凛も引く。
美里はもうダメになっているので、代わりに千鶴がカードを引いて渡す。
この回は誰も引き直すことがない。
つまり、みなそれなりに自信を持っているのだろう。
「じゃーやろうぜ。最下位だーれだ」
とりあえず千鶴が美里の代わりにカードを裏返す。
結果。
イヴ11。
千鶴7。
美里9。
綾香10。
凛13。
「あ、あれ、私かな、罰ゲーム」
「ふぅー! また罰だったらどうしようかと思った♡ じゃぁ今度はちーちゃんが罰だね♡」
罰になることなどありえない凛が余裕をぶっこいて言う。
千鶴も千鶴で罰ゲームだというのに、どこか楽しそうな表情をしている。
千鶴としてもこういったゲームは中々にやることがない。
それは風紀委員であるから、クラスでは真面目な『鈴木さん』で通っているから。
だから、ちょっと罰ゲームを受けるのをいいかな、なんて気持ちが沸いてしまう。
「こ、困ったな。どんな罰ゲームかな」
罰ゲームの山札をめくる。
カードをめくった千鶴の顔は、すぐにでも赤くなるとカードを持つ手が震えている。
「え、何々? どんなカード引いた?」
イヴが覗き込むと、そのカードにはなんとも破廉恥な内容が書いてある。
『一番強い人に自家発電をしたことがあるかないか言う』
「自家発電……? つまりオ……」
「い、いわないで!!!」
言いかけたイヴを千鶴の叫びがかき消す。
薔薇より赤い情熱色になった千鶴はカードを置くと、両手で顔を隠している。
「罰ゲーム二倍にしていいから……罰ゲーム引き直しちゃだめ?」
「んー、どうしよっか♡」
「俺はどっちでもいいよ」
「私も、ちょっと千鶴さんには過激そうだし(っていうか、今の反応でなんとなく分かったし……)」
「……」
骨抜きになった美里は置いといて、とりあえずその場の多数決で引き直しが可決される。
顔を真っ赤にしながら千鶴は改めて罰ゲームのカードを引く。
(また同じようなカードだったらどうしよう……次のカードは二倍になっちゃうし……どうか、お願い!!!!)
スルリ。
カードを一枚引く。
「なに、次は何引いた? ……あー」
覗き込んだイヴはそんな反応を示す。
カードを引いた千鶴といえば、一切動くことがない。
そう、まるで――
まるで座ったまま死んでいるかのように――
(燃え尽きたわ――――真っ白に――)
手からハラリと落ちていく罰ゲームのカード。
テーブルの上に落ちた一枚。
それはどんな内容だったのか、凛と綾香が注目の視線を向ける。
書いてあった罰ゲーム。
『最後のオカズは何だったか言う』
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