ポーションでご飯を炊いてはいけません~押し掛け新妻は異世界姫騎士~
ふぁぶれ
1食目 緑のご飯と流れ星の夜
僕は産まれた時分から、食事に不満を言うのは憚られる行為だと信じて疑わなかった。
誰かのためを思って作られた料理に文句を言うのは侮辱的な行為であり、食材を無駄にするような真似をすれば農家にも失礼だ。だからどんなに口に合わなくても少し意見するだけで、箸もつけずに非難するような真似は今までしたことがないという自負がある。
だけど、そんなことを言っている人は果たしてこの眼前に広がるこれを見ても同じことが言えるだろうか。
出汁と味噌の香りを湯気にのせて巻き上げる豆腐とねぎの味噌汁。熱気に未だ脂を踊らせる鮭の切り身。あえて小鉢に盛り直したにら納豆。ここまでは完璧な朝食だ。
僕の手の茶碗から湯気を立てて盛られた米は、まるでメロンソーダをぶちまけたかのような鮮やかな緑色をしていた。少なくとも僕は主食にこんな真似をしない。ローテーブルを挟んだ先で大人しく座っている犯人に、僕は眉をひそめて口を出す。
「シンシア……またやったんだね」
少し枝毛の跳ねる長い金髪の少女は、正座しながら指先をかわいく合わせ、琥珀色の瞳を横にそらしながら口ごもる。
「だってぇ…ホクトに元気になってほしくって…よかれと思って…」
「何度も言ってるでしょう!もぉ~~~ッ」
そんないじらしい理由で、そんなあざとい仕草で、そんなしおらしく言われたら。許すしかないじゃないか。それでもそんな本音は一度心にしまいこみ、もう何度言ったかわからない言葉を口にした。
「ポーションでご飯を炊いてはいけません!!!」
まあ結局食べるんだけどな!!意を決して掻き込んだ緑の米は、見た目にたがわぬ草の香りを湯気に乗せて鼻腔に充満させた。不味い、もう一杯!
「気持ちは嬉しいけど、こういうのに頼らなくても僕は元気だよ…確かにこう、下手な栄養ドリンクよりも効いてる感じはするけども…」
「いいじゃんポーション!こんなに体にいいんだから水代わりに飲むといいよ。薬草も今育ててるし」
シンシアが行儀悪く箸で指したベランダには、どこか雑草のような草がプランターにびっしりと生えて風に揺れていた。
「ああっ、いつの間に!」
「こんど育ったらお隣さんにお裾分けしよっかなぁ」
「やめて!いきなり隣人、それも外国人からよくわからない草渡されたら普通はビビるから!!」
「大丈夫です!だって私、異世界人なのでっ」
「同じようなもんだよ!」
シンプルな白いTシャツに包まれた胸を拳で打ち、なぜか得意気な顔で言い放つシンシアに突っ込まずにはいられなかった。
~*~
さて、こんな朝食の一幕の間にも聞き覚えのないワードがいくつか散りばめられていたかと思う。事情を知らない他人が聞けば頭の痛いおとぎ話だと思うだろう。
しかしポーションも薬草も異世界も、全てが真実だ。何故ならあの流星が降った夜、僕は目の当たりにしたからだ。僕のこの奇妙な同棲生活は如何にして始まったのか。なるべく整理して話していこうと思う。
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