第35話 友好の証




 吸血鬼の墓所は、ラブラドライトの埋葬している部分を中心にその外側は荒れていた。

 ラブラドライトの墓には赤い火花のような花がまだ咲いている。こちらの土壌に適応しているのか枯れていないことを僕は確認した。

 ガーネットがラブラドライトの為に祈るためにやってきたが、これでは他の吸血鬼族に申し訳が立たない。

 墓所が荒れ果てているのは、他の魔族と対峙したときに僕が魔術を使ったせいだ。物凄く申し訳ない気持ちになり、僕はそれを一つ一つ膝をついて土を元に戻していった。


「何をしている? 荒らした墓の修繕などと言い始めるのではあるまいな……」

「その通りだよ。魔術で荒らしちゃったから……僕はガーネットの祈りを邪魔しないから、いいよ。僕に張り付かれてたら弟さんと話しづらいでしょ」


 そう言って僕は苦笑いをするしかなかった。

 ガーネットは僕の前でそう弱みを見せることはないだろう。邪魔をしては悪い。


「………………」


 僕がいそいそと墓所の土を手でならしていると、そんな様子を見かねたのかガーネットも隣に来て土をならし始めた。


「ガーネット?」


 手で土を均し始めた彼は、少し沈黙した後驚くべきことを言った。


「……やはり、私はこの蝶を使うのは今は辞める」

「え……どうして?」

「強い祈りが必要なのだろう? ならば、私は……今、弟の為だけに祈れる自信がない」

「……何か、他のことが気になるの?」


 僕がそう聞くと、ガーネットは僕の方をじっと見つめてきた。


「…………お前は、新しく世界を作って、魔女を隔離することに成功したら……その先はどうするつもりだ?」

「その先…………クロエに言われたことを考えないといけないかなと思うけど……」

「お前はいつも、私の意見など聞こうとしないが……お前があんな男を伴侶つがいにするのは反対だ。あの男の魔女もお前と似た境遇で、まるで道具のように扱われていたと聞いた」

「……そうみたいだね…………」


 男の魔女の処遇についてはシャーロットに聞いたが、あまりに酷い扱いを受けていた。

 それを哀れに思わない訳では無い。


「だが、憐れみと愛情をはき違えるな。選ぶのは相手ではない。お前が選ぶのだ。自分から何かを選ぶのは初めてだろうが……お前は道具じゃない。選ぶことができる存在だ」


 憐れみ…………愛情…………境界線が解らない。


 僕がご主人様のことを守ろうとしたことは、愛情ではないのだろうか。憐れみだけで自分の身をなげうつことはできないだろう。

 しかし、ときどき狂気に蝕まれた者は憐れみだけで自分の身を投げうったりすることもある。

 その明確な境界線はなんだろう。


「ガーネットは……その後どうしたいの?」

「私は…………」


 歯切れ悪く、彼は口ごもってしまう。


「なにか、やりたいこととか、行きたいところとかあるなら。付き合うよ」

「………………」

「まぁ、もうしばらくは叶えられそうにもないけどさ……先のことが心配で気が散るなら、全てが終わったらまたここにくればいいよ」


 ガーネットは考えているようで、それ以上何も言わなかった。

 僕らが墓の整地が終わったのは随分経ってからだ。当然僕らは身体中また泥まみれになった。


「ふぅ……これでいいかな」

「なんで私がこんなこと……」

「手伝ってくれてありがとう。お腹空いたんじゃない?」


 僕は自分の身体を水を集めて乱暴に洗うと、ひとまずは泥は落ちた。ガーネットも一先ず手だけ水で洗う。僕はびしょびしょに濡れた状態で、自分の手首をガーネットに差し出した。

 何も言わずに彼は僕の手首に牙を立て、食い込ませる。

 そこからあふれる血液をこぼさないように飲み始めた。少ししてからいつも通り傷口は塞がり、出血は止まった。

 僕の手首に残っている血液に舌を這わせ、最後まで舐めとる。彼の舌は赤く、僕の血の色に染まっていた。


「僕もお腹すいちゃった。こっちで僕が食べられるもの、あるのかな」

「草食動物の肉で良ければ魔王城で出してもらえるだろう」

「そっか……その肩に留まってる蝶は一度魔王様に返そうか。いつか余計な心配事がなくなったらまたいただけばいいよね」


 ガーネットは自分の肩にずっと留まっている蝶を見つめた。

 尚もガーネットからその蝶は離れようとしない。その様子を見ていて「本当に弟さんのこと後悔しているんだな」と僕は考えていた。

 衣服の水分を分離して衣服を乾かす。


「じゃあ、戻ったら食事にしようか。ガーネットだけお風呂入りなよ。僕は魔王様にもらった術式の解読をするから先に眠っていて」

「あぁ……」


 僕らは魔王城に帰り魔王様に蝶を返すと、魔王様は驚きはしなかった。しかし、泥だらけのガーネットの姿は予想外だったようだ。

 魔王様が彼を見て笑ったことに腹を立てたガーネットは、また不機嫌になりさっさと出て行ってお風呂に行ってしまった。


「一応、何があったのか聞いてもよいか?」

「吸血鬼族のお墓の土をならしたんですよ。僕が魔術で荒らしてしまったので……」

「……あの荒くれ者が墓を均すなど……想像できないな」

「荒くれ者? 失礼ですが……吸血鬼族はみんなあんな感じじゃないんですか……?」

「ははははは、そうではない。あれは吸血鬼族の中でも特別気難しい」


 ――そうなんだ……


 と呆れながらも、その気難しい彼が一緒に墓を戻してくれたことは嬉しかった。

 大浴場からそれほど離れていない僕らの借りている部屋に一足先に戻ると、中から何かの気配を感じる。


 ――なんだ?


 僕が部屋を開けると、そこには銀色の長い髪をした青年が見えた。椅子に座って頬杖をついている。


「帰りが遅かったな。あのうるさいのは一緒じゃないのか」


 彼の口元から白く、鋭い牙が伸びている。僕を見て舌なめずりする彼を見て、僕は嫌な予感がした。


「リゾン……何の用?」

「私との話がまだ途中であっただろう。忘れたとは言わせないぞ」

伴侶ツガイになるって話か……」


 僕はリゾンの座っている椅子の近くにある、魔王様から頂いた術式の書かれている洋紙を見た。

 それは開かれており、リゾンが見た形跡がある。

「勝手に……」と僕は顔をしかめた。


「嫌とは言わせないぞ」

「僕はそのつもりはな――――」


 話している内にリゾンに翼を掴まれて引き寄せられ、ベッドに強引に押し倒された。抵抗する間もない素早い動きで、僕は身動きできないように固定される。


「お前みたいな非力な女、私にかなうと思っているのか?」

「放して……!」


 力を入れるが、全く振りほどくことは出来ない。銀色の長い髪が僕にかかる。

 目を見るとまた魔術をかけられてしまうと思った僕は、リゾンと目を合せられない。


「私の目を見ないのは賢明な判断だな」

「リゾン……やめて。伴侶ツガイなんて言って、僕のこと奴隷にしたいだけでしょ……」

「お前、言葉の意味をはき違えているのではないか? 魔族の伴侶ツガイとは、子を作るための相手という意味だ。私の子を身ごもれるのだから光栄に思うがいい」

「誰がお前の子供なんか……!」

「大人しくしていれば手荒にはしない。無理やり凌辱されるか、献身的に快楽を得るかくらいは選ばせてやる」

「やめてって……言ってるでしょ!!」


 僕は膝でリゾンの腹部を蹴りあげようとするが、リゾンはすぐさまそれを手で止める。逆に脚を掴まれ、強引に脚を開かされてしまう。


「やめろなどと言いながら、献身的だな? 脚を私に開いてほしいのか?」


 手が自由になったので不愉快にも笑っているリゾンに向け、風の魔術で吹き飛ばそうとするが彼は素早く僕の手首を掴み、気道を逸らされた。軌道を逸れた風は壁に当たり消え去る。

 それを見てリゾンは相も変わらずニヤニヤしている。その態度や性格はやけにクロエと重なった。

 しかし、クロエよりもずっとたちが悪い。


「舐められたものだな。本気で拒否をしないなら、初めから拒否などするな。それとも、あの時のように繋がれているのが好みか?」


 リゾンが魔術式を展開すると、僕の四肢にどこからともなく現れた鎖が一瞬で絡みついて僕の動きを完全に封じた。

 逃れようと暴れるが、びくともしない。

 魔術で切ろうとするが、そのたびにリゾンが僕の翼をカリカリと軽く引っ掻いて、僕は魔術に集中できない。


「あの役立たず吸血鬼はこんなことできないだろう?」

「ガーネットは役立たずじゃない」

「私の方があれよりも強いのだぞ? 何が不満なんだ。私に協力してほしいだろう?」

「こんな強迫しておいて……協力なんて笑わせるね……」


 リゾンは僕が動けないことをいいことに、僕の身体に更に触れてくる。

 馬乗りになって覆いかぶさり、首の辺りを舌で舐められると条件反射のようにビクリと僕の身体は反応してしまう。


 ――駄目だ……魔術に集中できない……


 ご主人様の銀色の髪と、リゾンの銀色の髪が重なる。その強引で少し乱暴な愛撫もそれを思い出す要因になる。


「お前、ガーネットとは交わったことがないだろう?」


 耳元で囁くように言われると背筋がゾクゾクとして腰が浮いてしまう。


「だったらなんなの……」

「魔女は性欲旺盛なのだろう? もう腰が浮いてしまっているぞ。ククク……」


 僕の浮いた腰を抱き上げ、身体をさらに密着させる。僕は声を出さないように下唇を強く噛んだ。

 リゾンが僕のボロボロの法衣に爪をかけ、ゆっくりと破いていく。

 法衣を破かれ白い肌が露わになり、リゾンはそれを見て満足げに舌なめずりする。僕が手脚を動かそうとするたびにジャラジャラと鎖の音が鳴り響いた。


「お前をなぶりながら凌辱する方が興奮するが、傷などつけたらあの無能が水を差しにくるからな……」


 そう言った矢先に、


 バタン!


 と扉が勢いよく開く音がした。


「!」


 その金色の髪からは雫がしたたり落ちていた。

 ガーネットは髪や身体が濡れていて、乱暴に服を着たのか下半身しか衣服を着ていない状態だった。その服も所々濡れている。


「貴様……!!」


 リゾンに飛びかかろうとしたが、魔術壁にガーネットは阻まれた。叩いても爪を立てても傷一つつかない。

 リゾンは強力な魔術を完璧に使いこなしている。これほどまでに強いのなら、リゾンの左目のところにある三本の傷は一体誰につけられたものなのだろうか。


「そこで見ていろ」


 防御壁に閉ざされたガーネットの声は完全に遮断されていた。何を言っているのか解らないが、激しく防御壁を叩きながら大声を出しているのは解る。

 リゾンは笑いながら、また僕の身体に覆いかぶさり首に軽く牙をあててくる。


「お前の血を飲んだら、あの男はどうなってしまうのだろうな?」

「ッ……!」


 バキンッ!


 その言葉を聞いて「それだけはまずいことになる」と、僕は無理やりに意識を集中させて魔術を発動し、鎖を断ち切った。

 間髪入れずに力任せに突き飛ばし、水の魔術でリゾンを包み込んだ。

 その水の表面を凍らせようとするがリゾンは一瞬で水を弾き飛ばし、僕の首を掴み上げる。

 彼の手に力が入って僕の首の骨が折れるまで、一秒もかからないだろう。


 ――もう……いい加減にして……!


 スパンッ!


 腕が落ちた。ゴトリと生白い腕が落ちる。


 落ちたのは僕の左腕の方だった。


「あぁあああああああッ……!!」


 尋常ではない痛みが走り、ボトボトと僕の腕のあった部分から勢いよく出血し始める。

 意識が飛びそうになるが急いで僕は自分の傷口を凍らせて止血する。

 息が上がる。

 心臓が暴れまわっている。

 神経という神経が鋭敏になっているような気がした。

 ガーネットの方を見ると当然僕と同じ状況になっていて、おびただしく出血している。

 僕はガーネットの傷口も同じように凍らせて止血した。苦しそうな表情は彼の髪で隠れ、声をあげているかどうかまでは解らなかった。


「どうしてこうなったか、解るか?」


 僕のべったりと汗が噴き出してきている身体に、リゾンは何事もなかったかのように先ほどの続きをしようとする。

 血で汚れている僕を見て、彼は更に興奮している様だった。リゾンの息は先ほどまでよりも荒くなり、彼の身体は熱があるかのように熱くなっている。


 ――この変態め……


 意識が遠くなる。

 しかし気絶することは許されず、リゾンは深く僕に爪を食い込ませて意識を保たせようとしてくる。

 翼に爪を深く立てられると激しく痛み、気がおかしくなってしまいそうだった。


「気絶されては面白くない」

「これだけ……性癖が歪んでいれば……誰もお前の相手をしないだろうな……」

「私の相手など、その辺の女に務まるわけがないだろう? それに、その辺の女というものは私に抵抗してこないから面白くないしな」


 その言葉に僕は吐き気すらした。

 その吐き気が腕の痛みからくるものなのか、リゾンに対する生理的なものなのかは区別ができない。

 ガーネットの方を見ると、僕に向かって言っている。

 その口の動きから、不意に彼が何と言っているか解った。


 こ……ろ……せ……


 そう言っている。しかし僕の右側の腕はリゾンに再び鎖で縛られてしまっている。


「あの役立たずが二度と私に逆らえないようにしっかりと調教してやらねばな。お前の血を飲んでやる。先程から甘美な香りがして……気が狂いそうだ……」


 リゾンが僕に牙を再び立てる。一秒もたたないうちに、僕はリゾンのせいで血まみれにされてしまった。


「な……! 馬鹿な……」

「……馬鹿なのは僕じゃなかったみたいだね」


 僕についたおびただしい血液は、リゾンの両腕が肩からバッサリと切り落とされたときに吹き出た血液だった。


「何故……」


 リゾンの腕の付け根の傷を、死なないように氷の魔術で止血してやった。


「どうしようもない死体愛好家の魔女がやってた魔術の転用さ……」


 アナベルが腕を切断されても手を動かし、魔術を使っていた。

 異界に来る前、危険を予知していた僕は腕と脳を時空を超えて繋ぐ魔術を発動させていた。アナベルはいけ好かない魔女だったが、こんな形で僕の役に立った。

 ガーネットと僕を隔てていた魔術癖は壊れてなくなり、自分の腕を拾って彼の方へ僕は駆け寄る。

 念のため僕らとリゾンの間に魔術壁を作った。リゾンは痛みに悶え苦しんでいるようで今のところ襲ってくる様子はない。

 僕は右手首を魔術で切り、血を流した。


「ガーネット……血を……」


 差し出された血の滴る手首に口をつけ飲み始めると、僕らの傷は治り始めた。

 僕は凍らせて止血していた部分を溶かし、切断された腕を元のようにくっつけてみる。すると切断面同士がゆっくりと元通りについた。ガーネットの片腕も同じように元通りにつく。

 これはシャーロットの治癒魔術よりも精密な治り方をしている。

 ただ、失った血液は戻らない上に、危険も伴ってしまうもろ刃のやいばだ。


「大丈夫?」

「ノエル……この壁を解け」

「…………駄目だよ」

「ふざけるな! ここまでされて生かしておくつもりはない!!」


 明らかに目が血走り、鋭い牙をむき出しにして口から僕の血をしたたらせている彼の胸に、


 トン……


 と僕は右手を当てた。


「ガーネット……僕だってこんなことされて許せるか自信はないけど、魔王様に処分は任せよう」


 彼の心臓の鼓動がやけに早い。

 僕だって心臓が早いし、気分が物凄く悪い。

 怒りが収まらないガーネットに、僕は懇願するように目を見つめて訴えるしかできなかった。

 僕の訴えに彼はやり場のない怒りからか、近くにあった家財に思い切り手を振り下ろした。その家具は彼の鋭い爪によって、魔術で切ったように鋭利な切り口でバラバラになった。


「……この馬鹿者が! お前は隙が多いのだ!! 知った顔だからと油断したのだろう!!!?」


 ガーネットに怒鳴られた上、僕は手を振り払われた。


「ごめん……」

「今回ばかりは謝罪では済まないぞ!! 下手をしたらお前は……お前は――――」


 僕は下唇に痛みを感じた。

 また彼は強く下唇を噛んでいた。彼のいつもの癖だ。僕の唇から、つー……っと血が伝っていく。


「……早く服を着ろ!」

「これしか持ってないから……魔王様に報告して借りてくるよ……」

「ならさっさと来い!!」


 ガーネットは僕の先ほどくっついた方の左腕を掴み、急ぎ足で魔王様のいる大広間へ歩いていった。

 先ほど切断されたのが嘘かのようにしっかりついているので痛みなどはなかったが、ガーネットがあまりに強い力で僕の腕を掴むのでそれが痛かった。

 僕は右手で自分の服の前側を抑えながらガーネットの速足に、僕は小走りになりながらついていった。

 ガーネットは相当怒っていたので、何と言って謝ろうかと何度も考えたがどうにもいい謝罪が思い浮かばない。

 そうこうしている間に、魔王のいる大広間についた。


「おい! 魔王!!」


 喧嘩を売るような口調で扉を開けると、魔王は吸血鬼族の長と思われる人物と話をしている最中のようだった。

 血まみれの僕らを見て彼らは何事かと思ったかもしれないが、それ以上に物凄い剣幕のガーネットに驚いた様子だった。


「貴様……!! 自分の子息のしつけをしっかりしろ!!! 危うく私たちは殺されるところだったのだぞ!!!」

「なんだと……2人とも血まみれではないか……私の子息とは、リゾンのことか?」

「そうだ! 殺されるだけならまだしも、こいつは凌辱されるところだったのだぞ!! 今すぐ殺せ! さもなくば私が殺してやる!!!」


 ガーネットが叫ぶようにそう言っている間に、魔王様が小鬼に着替えを持ってくるように指示していた。


「それで……リゾンはどうした?」

「部屋にいる!! 既に死にかけているがな!!!」

「………………ノエルよ、本当か?」

「はい……殺そうとはしていなかったとは思いますが、僕の腕を切断しました……。僕も抵抗する際に……魔術を封じる為に彼の両腕を切断しました。止血はしてあります」

「なんということだ……」


 魔王様は慌てたように立ち上がり、大きな扉を開けて僕らの部屋の方へ向かって行ったようだった。

 やはりあんな無法者の息子でも、魔王様にとっては大切なのかと僕は複雑な気持ちになる。

 僕は小鬼が持ってきた服を着る為、ガーネットたちに背を向けて服に袖を通した、翼の部分に翼を通すための穴が開いている服だった。

 翼人族に誂(あつら)えて作られたものだろうか。


「ガーネット……ごめん」

「謝罪では済まないと言ったはずだ! 二度と誰にも気を許すな! あの男の魔女にもだ!!」


 怒りが収まらないようで怒鳴るように僕に言い放つ。


「…………気を付けるよ……」


 気まずさに僕は目を逸らす。

 ガーネットは僕に近づいてきて僕の腕を掴み上げた。親指は僕の手首の動脈を押さえている。


「身体が熱いぞ。脈も速い……お前、あれで発情したのではあるまいな!?」

「え……」


 突然何を言い出すのかと僕は耳を疑った。


「何言ってるの……」

「私が入って行かなければリゾンを受け入れていたのではな――――」


 パァン!


 ガーネットがその言葉を言い終わる前に、僕は思い切りガーネットの頬を叩いた。

 彼のその続きの言葉に耐えられる気がしなかった。

 普段は絶対にこんなことはしないのに、どうしてもその言葉の続きを聞きたくなかった。

 手にも痛みを感じたが、頬にも鋭い痛みを感じる。叩く方の手も、叩かれる方の頬も物凄く痛いということが解った。

 叩かれた彼は物凄く驚いた表情をしていた。

 しかし、それ以上に僕はそんなことを言い出したガーネットに対して信じられない気持ちでいっぱいだった。


「馬鹿……ッ!! 僕だって怖かったのにどうしてそんなこと言うの!?」


 走って彼から逃げた。

 大広間から必死に外を目指して必死に走る。

 少しでも傷つく言葉から遠ざかりたい一心だったが、遠ざかろうと走っても言われた言葉は深く心に突き刺さり、言葉からは逃げることは出来ない。


 リゾンは強かった。

 敵わないとすら思った。

 あのまま凌辱されていたら、彼の子供を孕んだかもしれない。

 愛していない人の子供を、僕はどうしたらいいか解らない。

 魔族の強い者同士で伴侶ツガイになるという考え方は、僕には解らないものだ。そんなこと望んでいない。


 強いとか、弱いとか、そんなことどうでもいい。


 父さんと母さんが愛し合って僕が生まれたように、そうでなければ……――――


 僕はどこに行くとも考えず、走って魔王城を飛び出した。




 ◆◆◆




【ガーネット 現在】


 叩かれた頬と、ノエルの叩いた手の両方の痛みが残っている。唖然としている内にノエルは走って出ていってしまった。

 あんなふうに暴力が嫌いなノエルが、思い切り平手打ちをするという行為に思考がついていかない。


 一瞬で自分が勢いに任せて言ってはいけないことを言ってしまったということに気づく。

 ノエルは最近自暴自棄気味になっていたが、それでも心を委ねているのはあの主とやらだけだ。

 リゾンにもあの男の魔女にも心など許してはいない。

 当然身体を許すはずなどない。

 そこでふと「私だったらノエルはどうするのだろう」と疑問が浮かぶ。


 ――私が相手でもノエルは拒否をするのだろうか……


 そんなことを呆然と立ちすくしたまま考えている間は、時間が止まっている様だった。

 ノエルが飛び出していってから、実際は数秒程度は経っている。

 ノエルがあまりに遠くに行ってしまうと私は呼吸がしづらくなり、血が煮え立つような感覚になるが、まだその兆候はない。

 それほど遠くにはまだ行っていないはずだ。


「何をしているのだ、ガーネットよ」


 吸血鬼族の長のヴェルナンドは呆れたように私に向かってそう言う。

 吸血鬼族が好んで着る上等な服を着て身なりを整えている。しわがれた声とは裏腹にヴェルナンドは見過ごすことのできない威圧感を放っている。

 私と同じ金色の髪は少し癖があり、後ろで一つに束ねていた。手は骨ばっており筋が浮いている。


「相当にあの混血に熱をあげているようだな。その血走った目ではなにも見えぬだろう」


 ヴェルナンドはやれやれといった様子で大広間から出ていこうと私に背を向けた。


「頭を冷やせ。追いかけるのなら、それが済んでからにするがいい」


 私が何と反論する前に、カツンカツンと大広間を出ていってしまった。

 少しだけ私は息苦しくなってきた。心臓の鼓動が早くなってきた気がする。


 ――苦しい……


 その苦しさは、契約のせいなのだろうか。

 それとも……――私の今の気持ちが「苦しい」と感じさせているのだろうか。

 ノエルを追いかけようと走り出したものの、私は早々に失速した。


 ――なんと言葉をかけたらいい……?


「勝手にいなくなるな」「いきなり手を出すなど、何を考えている」「お前の不注意が原因だったろう」「欲情したのは事実だろう」と、いくつもの言葉がよぎるがどれもこれもノエルを責める言葉ばかりだった。


 ――どんな言葉をかけたらいいか……解らない……


 廊下に出ると、血まみれのリゾンを獅子の口で咥えている魔王がいた。リゾンの両腕も蛇の尾で持っている。

 ノエルが私の頬を平手打ちし、出ていってしまったことがショックだった私は、もうリゾンへの激しい憎悪など忘却してしまった。


「酷いありさまだが……止血はされている。ノエルがしたのだろう? …………ノエルはどこへ行ったのだ?」

「……走って出て行った。行先は解らない」

「走って出て行った? 何故だ?」


 なんと答えていいか答えあぐねていたが、その様子を見て魔王は状況を察したらしい。


「また喧嘩をしたのか…………しかし、ノエルが怒って喧嘩をするのは初めてか?」


 私の言葉の端々から的確に状況を把握する魔王に、苛立つ。


「うるさい……あれが勝手に怒って出て行ったのだ」

「本当にそうか? ノエルは理由もなく怒るような性格ではないだろう」


 知ったような口を聞く魔王に、私は更に苛立った。


「あいつの何が貴様に解るのだ」

「ほう……お前にはノエルの何が解る?」

「私は……!!」


 口火を切ったが、続く言葉が出てこない。


 ――私は……ノエルの何を知っているのだろう……


 セージとのことも私は知らなかったし、どうして主とやらがそこまで好きなのかも解らない、私のことを実際にどう思っているのかもわからない。


 私はノエルのことを何も解らない。


 まだほんの短い時間しか共に過ごしていない。

 色々と話をしていた中で、知ったような気になっていただけだ。


「相手を知るということは、相手が怒る事柄を知るということだと、誰かが言ったものよ」


 偉そうに説法を説く魔王に苛立ちながら、魔王を睨みつける他に術がない。


「いつもノエルが謝罪するものだから、仲直りの方法を知らないのだろう」


 自分が怒ってもノエルを別段嫌悪することはなかったが、ノエルが私を嫌悪したらどうしたらいいか解らなかった。

 自分が相手に嫌悪されようが、今まで一切気にしたことなどなかったからだ。


「…………もし……ノエルが私のことを嫌いになっていたらどうしたらいい……?」

「嫌いになっていたら? はっはっはっはっは!! ガーネットよ……なんというか、お前……初々しいというか、純粋というか……見た目に似合わないそういうところが、ノエルが気にいっているところなのだろうな」


 私が真剣に不安に思っているのにも拘らず、魔王は大したことないような問題と笑い飛ばした。

 呑気に、尚且つ馬鹿にしたような態度で笑っている魔王に怒りが沸いてくるが、怒号を飛ばす気にならない。


「リゾンを牢に繋ぎに行く。お前もついてこい」

「ノエルを探しに行かねばならん」

「そんな状態で追いかけて、お前はどうするつもりだ? あの温厚なのを怒らせたのだからそう簡単には許してくれぬぞ。少し私の話し相手をしてからでもよかろう」

「異界はノエル一人では危険だ」

「案ずるな。ノエルが一人で外出する際には小鬼どもに見張るように伝えている」

「見張りだと……! 貴様、私たちを信じていないのか!?」

「そう簡単に信じる訳なかろう。嘘をついているようには見えないがな。余程の狡猾な魔女である可能性をそう簡単には捨てられまい。とはいっても、小鬼をつけているのはノエルの身に危険があった場合の連絡係だ。そう殺気立つな」


 やはり、魔王は食えない存在だと感じた。

 何千年生きているか解らないが、何もかもお見通しかのような態度が気に入らない。


「……ふん、ではさっさと行け」


 そう簡単には許してくれないという言葉に尚更不安がよぎる。

 魔王の相手などしたくなかったが、確かにこのまま追いかけてもますます険悪になりかねない。


「ノエルが傷や落ちた腕を止血して冷やしてくれていたからまだ付くだろう」

「腕をつけるつもりか?」

「つけたとしても、ろくに動かない可能性が高いがな」


 治癒魔術は高等魔術だ。それも使える者が稀少だとノエルが言っていたのを思い出す。

 異界では妖精族が使えた筈だが、長であっても精々血管や千切れた細胞、骨同士を繋げる程度だろう。神経を繋げるような緻密で根気のいる魔術は使えないはずだ。


「私は今すぐにでもそいつを殺してやりたい。八つ裂きにしても足りん」

「…………そんなにノエルが大切か」

「契約のせいで一蓮托生なのだぞ。あんなに不注意では困る」

「ノエルはお前がしようとしないことをしているのだ。そう簡単に理解できないだろう」

「なんだ? 私がしようとしないこととは」

「相手を許容し、受け入れ、信じるということだ」


 魔王にそう言われ、私は何も反論できなかった。

 口をつぐんでしまった私を見て、魔王は言葉を続ける。


「ノエルはお前を信じているだろう。信じている相手に、信じてもらえないのは傷つくものだ」


 そう言われ、初めてノエルに会った日に主とやらに信じてもらえずに喧嘩になっていたことを思い出した。

 必死に説得していたようだが、結局信じてもらえなかったノエルは外で一夜を過ごすことになった。

 しかし、諦めたのではなく主とやらはノエルを信じて送り出した。

 ノエルはあの人間に対していつも従順だったようだ。

 それが町を出て身体を治すものを見つけてくるなどと主張して、譲らなかったその様子に折れたのかもしれないが……。


「察するに、心無い言葉を言ったのだろう。争いが起こるときはいつも猜疑心や嫉妬や傲慢からくるものだ。もう少し、身の振り方を考えないと愛想をつかされるぞ」

「……どうすればいいのか、解らない」

「謝罪すればいい。悪いことをしたと思ったら、謝罪だ。自分の非を認め、悔いていることを伝えるのだ。ノエルも死線をくぐってきた者だ。意固地に突き放すほど子供でもあるまい」


 魔王はノエルと私が初めに捕らえられた牢に、リゾンを繋いだ。

 腕は妖精族がつけるものかと思っていたが、魔王が魔術式を展開し、リゾンの腕をつけた。

 白い魔女が使う程のものではなかったが、腕は一応ついたようだ。そのついた腕にも枷をつける。


「処分はノエルに任せよう。ノエルが下すいかなる処分にも私は異議を唱えない」

「ノエルが殺すと言ったら殺させるのか?」

「勿論そうだ。仲直り方法が解ったのならノエルを追いかけなさい」


 私は指示されたことについては不満があったが、言われた通りにノエルのいる方角へと走り出した。




 ◆◆◆




 魔王は飛び出していったガーネットの足音を聞き届けてから、小声で話し始める。


「さて……いつまで寝たふりをしているつもりだ。起きなさい」


 そう言われた張本人は、ぐったりしながら弱々しく口を開く。


「……やかましい親父様だ……殺すならさっさとやればいいものを」

「あれほどノエルに手を出すなと言っておいたのに、何故手を出した」

「……決まっている。ガーネットごときが強い力を手に入れて調子に乗っているから、壊してやろうと思っただけだ」


 ヘラヘラと無理やりに笑いながらリゾンはそう言う。だが、笑っている割には衰弱している彼の息は早い。


「嫉妬か……お前もガーネットと大して変わらんな。あの混血はセージの忘れ形見だ。強かっただろう」

「ほざけ。手を抜いてやっただけだ」

「ほう……手を抜いたのはノエルの方だろうな。お前の首が胴体についていることを感謝するがいい」

「私があんな穢れた血に劣ると言うのか……!!」


 リゾンが牙を向き出しにしてそう言う。


「優劣で考えるな。まぁよい……ノエルが帰ってきたら、お前の処分を下そう。何故ノエルがお前を殺さなかったのか少し冷静になって考えておきなさい」

「ちっ……鬱陶しい……」


 魔王は部屋から出ていった。

 リゾンは静かになったその牢の中で、ノエルとガーネットのことを思い出す。

 笑っているノエルの傍で、昔よりも随分柔らかくなった表情をするようになったガーネット。

 吸血鬼族と龍族が争っていたのはもう過去の話になってしまった。

 短い間の争いだったが、すぐに魔王が争いを収めた。

 ガーネットは弟がいなくなってからは常に殺気立っていた。険しい顔をして、誰彼構わず敵意を向けて、むき出しの殺意で相手を容赦なく切り捨てる。

 金色の髪が血の色で染まり、足元には死体の山が作られていた。

 それが見る影もなく毒牙を抜かれたようになって帰ってきた。


 ――気にくわない……


 ガーネットは自分と同じ、孤独な存在だと思っていた。

 孤高の戦士だった。

 自分と並んで闘っていたはずだ。

 自分と同じだったはずだ。


 ――どんな女かと思えば……あんな子供……


 色気がある訳でもなく、まだそれほど長い間も生きていないくせに、赤い瞳の奥はどこまでも深い暗闇を宿している。


「あんなのの何がいいのか……」


 リゾンは冷たい牢の壁にもたれ、静かな時を暫く過ごすことになった。




 ◆◆◆




【ノエル 現在】


 スズランの香りがする。

 セージの匂いに僕は安堵していた。

 咲き乱れるスズランは、翼人の翼の羽のようにいくつも白い花を咲かせている。僕は膝を抱えて翼で自分を抱きしめるようにうずくまっていた。


「セージ……僕、やっぱりまだ子供だよね」


 大人になろうとするほど、大人が何か解らなくなってくる。

 町にいたカルロス医師のような人か、あるいは魔女に殺されてしまったガネルさん……それとも魔王様のような魔の王か。

 感情的にならないように制御しようとしても、感情とはそう簡単に制御できない。


 そう……今も。


「…………何?」


 僕は振り返らずにそう言った。無意識にいつもよりもキツイ口調だったと思う。


「放っておいてよ」

「それは命令か」


 なんと意地悪な質問だろうかと僕はため息をつく。

 契約下での命令は絶対だ。拒否できない。

 渋々ふり返ると、髪を乱して汗ばんでいる様子のガーネットが立っていた。それを見て僕は怒りの矛先は向けられずに、その矛は行き場を失う。


「……命令じゃない」


 命令は極力しないと誓った。

 そのことを僕も覚えていたし、彼も覚えていただろう。


「命令じゃないけど、放っておいてほしい」

「……ノエル、私の失言だった…………すまない」


 ガーネットが素直に謝罪してくるということに僕は驚いた。

 しかし、驚いた素振りは見せずに、そのまま膝を抱えてセージの墓を見つめ続ける。


「“謝罪じゃ済まない”よ」


 彼に言われたそのままを僕は意地悪で言った。

 僕に対して“謝罪ではすまない”と言った彼は、一体どうすれば僕を許すつもりだったのだろうか。


「どうすれば怒りを鎮めてくれるのだ?」


 僕のすぐ後ろまでガーネットが近づいてくる。

 そう言われると困ってしまう。

 いつもクールなガーネットが、汗をかくほど必死に追ってきてくれたことに対して冷たく突き放すこともできない。


「僕のこと、もう少し信じてよ……」


 届くか届かないか解らない声で小さくつぶやくと、彼はその返事をした。


「あぁ……努力はする…………」

「…………なんでそんなに素直なの」


 人格でも変わったかのようにそう言う彼に、逆に不信感を募らせる。


「許容して受け入れ、許すということを私がしてこなかったと魔王に言われてな……うまくは言えないが……そうだったと思うところはある」

「……僕のめちゃくちゃな計画にもついてきてくれてたじゃない」

「それは許容もしていないし受け入れてもいなかった。お前はやると言ったら譲らないから仕方なくだ」


 確かに納得してくれている様子はなかった。

 僕ももう少し納得してくれてから行動を起こせば良かったかも知れないと反省する。


 ――なんでこんな喧嘩してるんだろ。そんな場合じゃないのに……


 僕も悪かったかななどと考え始めたところで、もう自分が意固地になっていることに呆れが混じる。

 僕は息を吐き出しながら、引っ込みがつかなくなってしまった落としどころを探す。

 少しはガーネットに反省してほしいという気持ちがあった。あまり僕が怒って喧嘩をしたことがないので、どう収めていいか解らない。

 ガーネットも負い目を感じたことが少ないのだろう。どうしていいか解らなそうな様子をして困っていることは解った。

 そこで僕はちょうどいい落としどころを思いついた。


「今度酷いこと言ったら、何日か口をきいてあげないから」


 このくらいならお互いに威厳を失わないだろう。

 むくれながら振り返ってガーネットにそう言うと、彼は安堵したように先程までしていた険しい表情はやめた。


「……子供かお前は」


 いつも不機嫌そうにしている彼が穏やかな表情を見せると、その端正な顔立ちはより美しく見えた。


「とても私を平手打ちした者の言うこととは思えないな」

「……急に叩いてごめん」

「…………お前は――――……いや、なんでもない」

「?」


 言いかけてから、ガーネットは言うのをやめる。何と言おうとしたのか気になるが、聞き直そうとしたところで彼は別の話をし始める。


「魔王が言っていたが、リゾンの処分はお前が決めて良いそうだ」

「僕が……?」

「あぁ。殺すというのなら殺すそうだ」

「…………そう」


 ――殺す……か……死にかけてもあの変態は治らないような気がするけど……


 このままずっとセージの墓の前にいるわけにもいかない。

 立ち上がってガーネットの方へ行くと、おずおずと僕は右手をさし出した。


「なんだ?」

「その……仲直りしようと思って……」

「? その手をどうすればいいのだ」


 魔族にはそういう習慣はないようだ。

 僕はガーネットの左手をとる。


「こうやって手を握り合うの。“握手”っていう、むこうの世界の習慣。友好の証なんだよ」


 彼の手は冷たく、爪が鋭い。白い肌には痛ましい傷痕がいくつもついている。男らしい手で骨ばっていた。

 その手を僕は握る。僕を守ってくれた大切な手だ。

 ガーネットは躊躇いながらも僕の手を握った。


「友好の証……か」


 そうつぶやいているガーネットの手を放し、魔王城を向いた。

 僕はセージの墓の前で拗ねている場合ではない。魔王様にいただいた魔術式を解読したり、高等魔術を使える者を確保しなければいけないのだから。

 それに、僕がリゾンの処遇も決めなければならない。


「戻ろうか」

「あぁ」


 そうして僕らは帰路についた。

 ガーネットが言いかけた事は、魔術式のことやそれを操る人員のことで頭がいっぱいになって霞んでしまった。


 ガーネットの言いかけた「お前は」の続きの言葉……


「私が相手なら拒否しないか?」と続くその質問は僕にされることはなかった。



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