Unknown Room ~僕の世界の回顧録~

O3

1 全ての始まり




 暗い、暗い、どこまでいけど黒だけの世界。




 いや、そもそも『世界』という概念もこの場にはまだなかったはずである。

 なにせこの空間には何も無いのだ。


生き物も、無機物も、光も、時間も、感覚も。まだ何も存在してない空っぽのどこか。


 それが突如一変した。


 広がるのは一面の白。


 変化が起こった時の体感はまさに、気づいたらという感じだ。目の前が黒から白一色になったことでちかちかと眩み、しばし動揺した。

 ここで『それ』は明るいという概念を学び、さっきまでいた場所を暗いと結びつけることも可能となった。


 白く広がった空間の中で、『それ』がのそりと動く。

 地に自分が降り立つ感覚。感覚を手に入れ、ここに上と下という概念が生まれ、それと連動して右と左もわかるようになった。

 そして、自分には生まれた地面を踏みしめるための脚があることを『それ』は知った。


『それ』は今さきほど出来たばかりの脚を、ぺたぺたと鳴らしてただ真っ白な空間を歩き回った。


 進めど、ここは白一色で全てが構成されている。行先には何も無い。

 だが、『それ』が進むにつれて、ぽこり、ぽこりと背後には白い四角い物体が現れては、球体や三角形に姿を変え、色づき、(ここで色というものができあがったことに『それ』は気づいた)大きく膨らんだかと思えば、次の間には消えてしまったりもしていた。


『それ』は突如として現れた物体たちに、触れたいという感情をもった。すると『それ』の形が一瞬ぐにゃりと歪み、体から細く伸びた二本の突起が現れる。


 そうして、二本の腕が自分のものとなった。出来た腕を興味ありげに、存分に、満足気に眺めた『それ』は、その腕を使って浮いている物体に触れた。

 自分の手から伝わる感覚は様々だった。

 すべすべとして軽い感覚から、ざらざらとして指に引っかかるの感覚、ひんやりと冷たい、じんわりと温もりを感じる、ちくちくと手の表面を刺す棘も。


 触覚を得たことにより、『それ』の世界は一気に拡がった。周りに浮かぶ物体の数は飛躍的に増えてこの空間に無数に浮かび上がっては、無数に形や色を変えていく。


 しばらく物質をぼんやりと見ていたが、ふと『それ』は何を思ったのか、ちょうど近くに浮いていた小さく様々な色が混じった球体を、がしりと掴んだ。

 そして、それをなんの躊躇いもなく、握りつぶした。これが初めての「破壊」という行動となった。


 パァン、という大きな音が鳴り響き、目の前が輝きたくさんの色が飛び散った。


 その弾けた色は、青から赤へと、緑から桃、更にオレンジや茶、そして全てを吸い込む黒と白。


 それがかわるがわるに現れては消えていき、ぐるぐると空間上に渦を作った。

 その渦は消えることなく、その空間を漂っている。


『それ』はそのできた渦にひどく感動し、興味をそそられた。これが一番初めに誕生したこことはまた別の「世界」というものだと知らずに。


『それ』は夢中になって、またひとつ、またひとつと物質に手を伸ばし、それを弾けさせ、世界を造っていった。


 いつしか物質と共に無数の色付いた渦、すなわち別の世界への入口が無数にぷかぷかと宙を漂っているようになった。


 そうして成立したこの空間。


 様々な世界と世界を繋ぐ中継地点。全ての世界の始まりの場所。


『それ』は自分が住むこの場所を「Unknonw Room」と呼ぶことに決めたのだった。

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