NASAの男・甘木秀彦

16-1

 甘木秀彦は奈々子から下着を受け取ることを諦めて校舎へと向かった。奈々子に下着や隕石のことを説明している時間が惜しい。

 奈々子はいまプールの授業中だ。見たところプールサイドに更衣室はなかった。ということは、おそらく奈々子は教室で着替えたはずだ。奈々子がいま水着だということは、シンパシムが含まれている下着は教室に残されている。

 校舎に入り。再び三階まで重い体を運んだ。

 高校二年A組の教室にたどり着く。

 中に入ると予想通り机の上に着替えたであろう制服が置かれていた。

 さっきはこの荷物から下着を取ろうなんて考えもしなかった。

 傍から見れば完全に犯罪行為だ。娘のものであろうと学校に忍び込んで下着を盗むなんて。

 でも、世界を救えることに比べたら、変態と娘に罵られようが関係なかった。

 そこで愕然とする。奈々子の席がどこだかわからない。

 この二年間奈々子とのコミュニケーションが少なくて、どの席に座っているかまではわからない。

 焦る。

 机の間を歩く。黒板の脇の掲示板を見る。どこだ。どこが奈々子の机なのだ。

 焦りで思考が乱れてくる。

 落ち着け。失敗するわけにはいかないのだ。

 甘木秀彦は妻に電話をかけた。繋がった瞬間訊ねる。

「奈々子の鞄はどんなのだ?」

「あなたいま学校にいるの?」

「ああ、そうだ。それで奈々子のプール用の鞄はどんなのだ?」

「白地に薄いピンク色のラインが入ってるやつよ」

 甘木秀彦は視線を走らせた。

 あった。あれだ。

「ありがとう」

 甘木秀彦は電話を切った。そして畳まれた制服の間に置かれた下着を手に掴む。

 と、廊下から女子生徒の声が聞こえてきた。

 まずい。授業が終わったんだ。

 今のこの状態を見られたら説明するのが面倒だ。

 甘木秀彦は見つからないように教室を出た。

 手に中に広がる下着の感触を確かめる。

 やった。ついに手に入れた。これで世界が救えるんだ。

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