3-2

 次の日の朝。

 寝坊した奈々子は慌てて支度する。鞄と水泳バッグを肩にかけて家を出る。門の前に松成敬輔の姿があった。

 自分の感情を押し隠しながら奈々子はいつも通りの自分を演じる。

 敬輔が素っ気なくても気づかないふりをして、敬輔が自分の話を聞き流していても理由を聞かずに、ただ拗ねる。

 今の関係が壊れるのが嫌だった。自分は思ってた以上に臆病なのかも。

 それにしても、今日の敬輔はいつもと雰囲気が違う。なんだか制服のシャツの皺もいつもより多い。もしかして、いつもは母親にしてもらっているアイロンを自分でやってみたのだろうか。思春期なのか、大人への憧れなのか、それとも自分に気合いを入れているのか。

 ああ、それにしても、もし敬輔と美姫がつき合うことになったら、こうして毎朝敬輔を観察することもできなくなるんだ。悲しか。

 敬輔とも美姫とも今の関係のままでいれたらいいなと思った。だから甘木奈々子は願った。敬輔が思いを美姫に伝えなければいいのに。

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