第10話  正妻葵の上 

 光源氏は、14才で元服し、左大臣家の姫君と結婚します。この姫君が葵の上です。帝の血筋の母を持ち、光源氏より4才年上で、左大臣の一人娘です。源氏と親友の頭の中将はこの葵の上の母親が同腹の兄です。

 葵の上は身分も高く、器量もよく、気品もあって、素晴らしい姫なのですが、何かにつけ、光源氏の前では肩に力が入り、くつろいだ様子も見せません。なんとなくよそよそしく、気づまりで、源氏の足は自然と、他の女君のところへ向かうのでした。それを聞いて、葵の上はなおさら、源氏の君の前では素直になれず、いつ訪ねても、親し気な様子もなく、よそよそしいのでした。

 浮気な源氏の君は、自分の理想の女君を探すのに夢中で、夕顔におぼれてみたり、紫の上を引き取ったり、やりたいほうだいのなさりようです。

 それを聞くにつけ、葵の上は、源氏の君に対して、ますます、距離をおき、たまに源氏の君が訪ねてきても、くつろいだ様子も見せることなく、夫婦の仲はますます冷えていくばかりでした。

 それでも、たまのエッチにもかかわらず、葵の上は源氏の子を懐妊します。

 藤壺との間に生まれた秘密の皇子とは違って、今度は堂々と、自分の子として、祈禱をさせたり、僧に誦経をさせたり、あれこれと出産に向けて準備します。葵の上は、物の怪がひどくたくさんとりつき、苦しみます。そのうちの1つがあの六条の御息所の生霊です。葵の上があまりに苦しむので、源氏が抱きかかえると、その顔が間違いなく六条の御息所の顔になり、源氏に語りかけます。あまりのことに源氏はぞっとするのでした。そして、どうしても、六条の御息所の元へは足が遠のくのでした。

 葵祭の日、葵の上の母親大宮は、葵の上に、気晴らしに、祭りの見物に行ってはどうかと声をかけます。そこで、お供のものと葵の上は牛車に乗って、祭りの行列を見に出かけます。行列には光源氏もいます。それを見ようとあちらもこちらも、牛車でいっぱいです。葵の上の牛車は空いた場所を見つけようとした矢先、ある牛車をむりやりどかして、場所をとってしまいます。その牛車こそが、あの六条の御息所の牛車なのでした。

 六条の御息所は悔しいやらなさけないやらで、葵の上のことを恨みます。でも、当の葵の上はそんなことは夢にも知らないのでした。

 やがて、葵の上は産気づき、いよいよ出産に向けて、加持祈祷や誦経がなされ、左大臣邸はものものしい空気に包まれます。やがて、玉のような男の子が生まれました。無事に出産が終わり

左大臣家は子供の誕生に、お祝いムードです。

 葵の上は初めて、源氏にうちとけた様子を見せます。そんな葵の上を見て「自分はこの姫のどこが不満だったのだろう」と思い、あらためて夫婦の契りを深くしたのでした。

 ところが、源氏が宮中に参内している、そのわずかな間に、葵の上はあっけなく亡くなってしまいます。おそらく六条の御息所の生霊に取り殺されたのでしょう。

 誰もが信じられず、亡き騒ぎ、母親の大宮などは、あまりの悲しみに、病気になってしまいそうでした。

 左大臣家の姫という、何一つ不足のない妻をもらいながら、源氏はたくさんの女のところへ通い続けます。葵の上も、本当は、源氏ともっとうちとけて、本当の夫婦になりたかったと思います。でも、源氏の浮気をたくさん聞くにつけて、嫉妬を感じながら、自ずと、心を開けず、子供を産んで初めて夫婦として認め合った矢先、六条の御息所に取り殺されてしまいます。

 何という人生でしょう。ここからは私の解釈ですが、紫式部は、葵の上を、いつまでたっても源氏にうちとけない気位の高い妻として描いています。けれど、出産を機に、少し打ち解けてこれから、という時に、六条の御息所に殺させます。

 読んでいる方はなんてかわいそうにと思います。

 でも、もし、ここで葵の上が亡くならず、生きて、源氏と仲睦まじく暮らしてしまったら、源氏物語はここで「こうして、光源氏と葵の上と子供は末永く仲良く暮らしました」と終わりを迎えることになってしまいます。それでは、物語的に面白くも何ともありません。

 ここで正妻葵の上が死ぬことで、一体誰が光源氏の正妻になるのか、紫の上とはどうなるのか、他の女も出てくるのか、と物語の今後を読者が読みたくなるような展開に物語は進みます。そこが、作者紫式部のストーリーテラーとしての腕の見せ所だと思います。

 次が読みたくなる方な展開、紫式部の腕は現代にも通じるものだと思います。

 そして、自分もそんな話がかけるようになりたいものだと思います。


 読んでいただきありがとうございました。

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