第8話 夕霧と雲居の雁  

 源氏には、亡き葵の上との間に夕霧という息子がいますが、女のこととなると浮気なくせに、源氏は敢えて親の七光りで高い官職にはつけず、低い官職から、自分の力で出世するよう、息子には厳しい態度をとります。意外と教育パパだったんですね。

 夕霧は、父親に似ず、とても真面目で、色恋もあまり派手ではありません。幼い頃から左大臣家で育ってきたのですが、そこで一緒に育った、いとこでもある頭の中将の娘雲居の雁と幼い頃から仲睦まじく、いつのまにか、2人はエッチしてしまったのでした。

 頭の中将は、この姫を宮中に参内させようかとも思っていたので、このことが気に入らず、2人の仲を裂くような仕打ちをするのでした。夕霧は、早く官位を上げて、雲居の雁の婿として認められたいと頑張ります。夕霧は雲居の雁に会えない寂しさに、五節の舞姫とちょっと浮気はするものの、やはり雲居の雁を思う気持ちが一途で、ちゃんと結婚できずにいるのがつらくてたまらないのでした。

 やがて、夕霧は、官位を上げます。頭の中将も、いつまでも、2人の仲を認めないのは、大人げないと感じ、ついに、夕霧と雲居の雁との関係を認めます。こうして、幼い時から相思相愛だった、2人はやっと正式に、夫婦として認められます。

 光源氏が、若いうちから浮気がちで、あっちにもこっちにも女を作っていたのに対して、息子の夕霧は、雲居の雁一筋で、随分と対照的です。後半で、夕霧も落ち葉の君と浮気をして、雲居の雁と夫婦の危機に陥ることもあるのですが、それはまた別の機会に語るとして、それでも、夕霧がエッチした女性は、3人だけです。父親の光源氏と比べたら、数えるほどです。

 夕霧は、真面目なのです。そういう意味では、雲居の雁は当時の一夫多妻制の中、幸せな女性であったと思います。幼い頃から一緒に過ごし、将来を誓い合った相手といろいろな障害を乗り越えて結ばれたのですから。紫の上が、幼い頃から光源氏に引き取られて育てられ、合意ではなくエッチされ、自然と光源氏の妻となったのと比べると、雲居の雁は、自分の意志で相手を選んで、相思相愛で結ばれるという、まったく対照的な人生です。

 ここからは私の解釈ですが、紫式部が、夕霧の妻を雲居の雁のようなタイプの女性にしたのは、光源氏の妻紫の上と対照的な女性にしたかったからではないかと思います。光源氏を頼るしか生きるすべがない紫の上に対し、左大臣家という大きな後ろ盾があり、どうどうと夕霧と結婚した雲居の雁。

 紫式部はおそらく、雲居の雁というキャラを結構気に入っていたのではないかと思います。私も好きです。

 

 読んでいただきありがとうございました。

 

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