楽しい源氏物語

有間 洋

第1話 紫の上 vs 浮舟

 源氏物語と聞いて、うえっ、学校の古典でやったあのわけのわからない話だと、思う方もたくさんいらっしゃると思います。確かに原文はまるで宇宙語、何を言ってるのか全然わからない。ええそうでしょう、そうでしょう、トラウマになっている人もいるかもしれません。

 でも、この物語、千年も前に書かれたにも関わらず、読んでみると、実に面白いんです。

 いやいや、なんかいずれのおほんときにか、高貴な人々のお話でしょう。全然面白いわけないよ。

 まあ、まあ、そうおっしゃらずに、とりあえず、私の話を聞いてください。

 源氏物語は、イケメンでなにをやっても完璧な主人公光源氏が、たくさんの女人とやりまっくちゃう物語なんですよ。後編の宇治十帖では、源氏の血を引く匂宮におうのみやと、源氏の息子(実は本当の息子ではない)のかおるが、1人の姫君を取り合う物語なんですよ。

 ずいぶんばっさり切ってしまいましたけど、大筋は間違っていないです。

源氏物語は、光源氏が主人公の本編と、光源氏亡き後を舞台とする宇治十帖の二編に分けられます。

 今日は、本編の女主人公と言っていい光源氏が一番愛した、紫の上と、宇治十帖で匂宮と薫が取り合った、女主人公と言える、浮舟うきふねについて話してみたいと思います。

 紫の上は若き日の光源氏が、幼いころから手元に置き、自分の手で育て、やがてそのまま妻になり、源氏の一の人よと言われるくらい源氏に愛された女性です。ですが源氏には紫の上以外にもたくさんの女がいて、常に嫉妬に苦しめられていました。

 紫の上はとても信心深く早くから出家(俗世を捨てて仏門に入ること、尼になること)を望んでいましたが、源氏はそれをどうしても許さなかった。紫の上は結局若くして病気で亡くなってしまいます。

 結局、紫の上は、光源氏以外の男を知ることもなく、出家もかなわず、死んでいきます。

 これと、対照的なのが、宇治十帖の浮舟です。浮舟は、最初は薫に愛されます。とはいっても、薫は浮舟のことを「身分の低い女」とどこか蔑んだ気持ちを持っています。それに対して、薫の留守を見計らって、プレイボーイ匂宮は無理やり浮舟を自分のものにしてしまいます。まあ、間男というわけです。匂宮は薫とは対照的に、浮舟に激しい情熱をぶつけます。

 二人の男に愛された浮舟は、迷います。真面目な薫か、それとも、プレイボーイだけど情熱的な匂宮か。

 結局、浮舟はどちらとも決められず、思いつめて、宇治川に身を投げて自殺をはかりはかります。ところが、宇治川沿いのあるお寺の僧侶に助けられ、一命をとりとめます。

 やがて、風のうわさに浮舟を探していた薫と、匂宮はこの寺に使いを送ります。

 ところが、浮舟は僧侶に懇願し、髪をおろし出家をします。

 こうして、浮舟はどちらの男のものともならず、仏の道に入り、やっと心の安寧を得るのです。

 ここからは私の解釈ですが、本当に信心深く、仏門の素養もあった紫の上が、源氏のために、出家できないまま、嘆きの中で人生を終えたのに対し、たいした信心もなかった浮舟が、2人の男から解放されるために、見事に出家したこと、これは、紫の上の仇を、浮舟がとったと考えていいのではないかと思います。

 宇治十帖は紫式部が書いたのか、どうかそこは諸説あるのですが、私は、この宇治十帖の浮舟があっけなく出家した最後に、思わず「あっぱれ」と思ってしまいます。本編の紫の上が許されなかった出家、それを身分も低い浮舟が見事なタイミングでなしとげたこと、そこに、作者の復讐のようなものを感じます。


 読んでいただきありがとうございました。

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