華の散るが如く

寝多井屋

第1話 安土の城

 琵琶湖のほとりに巨大な城郭都市が出現した。その名は、安土城。今や、天下人として、全国を自分の配下の武将によって制覇しようとしている織田信長によって築城された。


 巨大な石垣や、天守は、周囲を威圧するようでもあり、天下を睥睨し民衆を監視しているようでもある。城下町には、多くの店が列び、周辺には多くの買い物客で混雑していた。民衆は、すでに平和の匂いを感じているようでもあった。


 未だに戦国の世は終わったわけではないが、近江を含む京都周辺の地域においては戦国の気配は消えつつあった。それも、織田信長という人物によって周辺の諸大名、宗教勢力などが排除されたためでもあった。


 応仁の乱から続く戦乱の嵐は、織田信長という戦国の風雲児によって終わろうとしていた。


 その中を数人の共を連れた人物が、安土城に向かっていた。


「いつ見ても、安土城は壮大だな」


 安土城を見上げながら、その壮麗な姿に、つい言葉となり、口から漏れ出ていた。戦国の時代の防御だけに徹した山城とは異なり、政治的なパフォーマンスという意味合いや、日本の中心として機能することも考慮されているようだった。


 配下の武将の多くが、城下町に屋敷を持ち、今後はそこで暮らすようになる。信長から招集がかかれば即座に集合し、重要な決定を下すことが出来るようになる。


 言わば、安土政権とも言うのか、織田政権とも言うのだろうか?


 武田信玄が亡き後、武田家の家督を継いだ勝頼を破り、武田家を滅亡に追い込んだ織田家にとっては、近隣で対抗できる勢力もなく、中国の毛利、四国の長宗我部、関東の北条、越後の上杉が残るだけだ。


 それらの勢力へも、軍団長として織田家の重臣を派遣して攻略中だ。織田政権の全国支配も、間近まで迫っている。


 共を連れた人物が、賑わう市場を通りながら、周りの者に呟く。


「この賑わいを見ると、ここが新しい都のように感じるな」


 男は、立ち止まり、安土城を見上げた。

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