第12話 「学校祭」 その26
「四葉が……いない……」
恐る恐る開けた扉から見えたのは四葉のリュックだけがベットに無造作に置かれていて、それ以外は静かだった。そして、当の四葉は部屋にはいなかった。
いや、もしかしたら庭にいるのかもしれない。もしくはリビングとか、屋上とか……僕はそう思い経ってすぐに家中を見て回った。台所からトイレ、そして屋根裏部屋まで————
————しかし、四葉は本当にどこにもいなかった。家の隅々まで調べたが彼女がいたような痕跡はどこにも存在しなかった。
「外に遊びにでもいったのかな……」
いや、その節はあるかもしれないがあまりにも子供過ぎる。
もう高校生だし、門限として親に明確に言われていることはなかったはずだ。少なくとも限度としては夜11時くらいに帰ればいいだけだし。それで二人とも怒ることはないし、それは彼女も僕も関係はない。
だからこそ、そんな風にコソコソとする必要性はどこにもないのだ。
「でも……じゃあ、なんでなんだ……?」
すると、僕の頭に一本の赤い糸が落ちてきたように思えた。朝。今日の朝を思い出せば、何かがおかしかった。
そう、特に彼女の様子があからさま……とまではいかないまでも、ポーカーフェイスが苦手な四葉だからこそ感じる違和感があった。話しかければ足元……いや、自分の後ろに回した手を気にしていたような気がする。話せば上の空だったし、かなり他のことを考えている様子に思えた。
もしかしたら、その手に……それが……。
「……でも、そんなこと…………」
そんなこと、あるわけない——と思いたい。
いや、そんなことはあってはいけない。あったらいけないことだと思っていることだ。
でも、もしも四葉が僕と同じようになって、あのクソ野郎共のところに行っていたとしたら……どうだろうか。
「くそ……まじかっ……ヤバいぞっ!」
だから、だったのだ。
今朝、四葉の言動に動揺が見えたのは——昔の父親からの手紙が自分の元に届いて驚いていたからなんだ。
行かなくてはいけない……だが、僕が一人で行ってどうするか。
あの時の相手は僕に所縁のある人だけだったのに、今度は四葉に対してのお話だ。それにあいつはもう他の男を作っていたんだ。
それに、元の父親があの男には思えないし、四葉の……その、昔の父親の顔は一度だけ見たことがあるから分かるが、僕が見たあいつが連れていた他の男とは全く違かったはずだ。
もしくは……変装?
その手も数パーセントだけあるかもしれないが流石に、あんな風に忠告したのに今度は父親の立場で会おうとするだろうか?
それに、あの後は四葉に助けられたわけで、あいつもあそこにいなかったようだが絶対にどこかで見ていた可能性の方が高い。恐らく、一度僕たちのことは見ているから対処もしやすいはずだ。
昔から、あいつは慎重だったし、仮にもそんな凡ミスを犯すとは到底思えない。
「くそっ……僕は……」
ただ、その低い確率が来た時に僕は彼女を助けることが出来るだろうか。また、返り討ちになりそうで怖い。というか、もう若干のトラウマだ。むしろ会いたくはない。もっと言えば、顔なんて墓場に入るまで見たくはない。
「18:50」
しかし、時間はすでに五十分経っていた。割と遅めに帰ったし、きっと四葉が家を出てから三十分以上経っているはずだ。状況的にはかなりヤバかった。
これで何かあったら、もしくは誘拐事件とかになったら……あいつらの考えることはもう、僕に理解できる範疇を超えているし……とにかく行くしかないっ。
「もしもし、前沢か?」
「ああ……なんだ、急に?」
「手を貸してくれ」
「……そうか、分かった。今から行く」
「頼む」
でもさ、どうしてこういう時だけは本当に良い奴なんだよ……こいつは。
「行ってきますっ——!」
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