第12話 「学校祭」 その9

 

 その姿は天使そのものだった。


「お前の妹すげえな……」


「……ほんとだな」


 我ながら誇らしいが前沢にそんなことを言われるのは少しばかり腑に落ちない。しかし、その隣で西島さんが口を手で隠しながら涙を流している。こっちもこっちだ、あんたは親か。


「は、恥ずかしい……です、よ、こんなの……」


 周りの女子たちに囲まれながらも、天使よつばが放つ輝きはこの程度では止まるわけがなかった。さっきまで作業をしていたはずの男子たちも作業を止めて天使よつばを見つめる。廊下から他のクラスの人たちまで押し寄せる始末で、この場はいつの間にか芸能人がいるのでは? と思った生徒が集まる場所と化していた。


「おいおい、あれヤバいぞ!」

「ん? おっ‼‼」

「何あれメイド服!? 可愛すぎん!」

「これはまじで萌えるなぁ……」

「あの子可愛い~~」

「最高、いや最強だなぁ」

「俺、あの子に踏まれたい」

「うわぁ~~嫌な顔されながらパンツ見せてもらいたいなぁ」

「ちょっとスカート捲りたくね?」


 有象無象の声は止まることを知らず、四方八方から四葉を取り囲む。なかなかどうして、殺意がわいてくる。義兄として見過ごせない台詞を掛けた愚鈍共はあとで始末でもしておくとしようか。


「おい、柚人。顔が怖いぞ」


「え、そう?」


「ああ、人殺しそうな勢いだ」


「ちょっとイライラしてね」


「それはまあ……仕方ないけど」


「まあ四葉が魅力過ぎるんだもんな、義兄として胸を張れるし!」


「あっ! そうだ、私、お姉ちゃんになってもいい!?」


 なんとか腸が煮え切りそうなのを止めたと思えば、もう一人の敵が現れた。


「結構です」


「え~~、だって四葉ちゃん可愛いし、これはお姉ちゃんになるしかないじゃん??」


「そんなことはない、うちの四葉は誰にもやらんぞ」


「お、お兄さん! 四葉ちゃんをください!」


「どこの馬の骨とも知らん、お前にうちの四葉はあげられるか!」


「茶番はよせ」


「「本気だ!」」


「————はぁ、まあいいよ」


 


 数分後。


 何とか落ち着きを取り戻した教室であったが四葉はメイド服--------いや、天使姿のままだった。教壇の横で採寸を図り、他の女子たちにも合うように作れるか案を練っているのだが……さすがにここまでずっと着ていると最強に可愛いからほんの少しだけ可哀想にシフトチェンジしてしまう。


 落ち着いたとはいえ、思春期男児からは格好の獲物だ。僕ですら目の保養になる立派な義妹だが、それはいささか本意ではない。


 ココは義兄としての威厳を——と考えたその時だった。


「そう言えば、柚人感想言ったのかよ?」


「……なんの?」


「いや、四葉ちゃんのだよ。見とれてるだけだったろ? それにあの格好のままじゃかわいそうじゃん?」


「……あぁ、確かに忘れてた」


「ほんとかぁ⁇ 恥ずかしくて言えないだけじゃないのかよ?」


「な、なわけあるかっ! 僕の義妹だぞ、そのくらい言える!」


「へぇ~~、じゃあさぞこのいやらしい視線の嵐から救っていけるんでしょうね~~、これはさすがお兄さんだ~~、さすがだ~~」


「お、おい!」


 すると周りの男子たちがこちらに視線を向ける。

 しかし、次に発された言葉は僕の予想外の一言だった。


「————柚人、お前って洞野さんと、家族だったのか??」


「え」

「あ」

「あら」



 なんともあっけない、最大の秘密がバレた瞬間だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る