第9話 「第一次奪取戦争」 その11


 そして、当日。


「「おじゃまします~~」」


 週末、土曜日の午前11時。

 僕と四葉は烏目椎奈の家に到着した。


 つい昨日までは僕と四葉が義兄妹であると気づいてはいないと思っていたが、よく考えてみれば部活中に部長が僕のことを「洞野兄」と呼んでいる時点でその関係はバレている。今更隠す必要はないため、僕と四葉は一緒に来ていた。


「おじゃまされますー」


「じゃあ、遠慮なくじゃましていくよ」


「なんて堂々と……」


「……今日はテスト勉強しに来たんですよぉ」


 むすっと口を膨らませる四葉を横目に笑いながら謝る僕。そんな場面を見ていた椎奈は「じゃあ靴脱いでこっち来てね」と何気ない顔で言った。


「お、おう」


「う、うん」


 普段はあまり揃えない靴を綺麗に揃え、僕と四葉の足のサイズの違いに驚く間もなく彼女の後ろをついていく。


「こっちね~~」


 椎奈が扉に手を掛けて開けると、僕たちは声を漏らしていた。


「す、すげぇ……」


「な、なにこれ……」


 居間に入ると広がっていたのは部屋一面の本だった。ダイニングキッチンの入り口以外の場所には大きな本棚が設置され、本棚の上には彼女や両親の名前の入った表彰状が綺麗に飾られている。


 見た目だけ、居間だけの写真撮ってしまえば図書館と言っても差し支えないくらいには整っていた。むしろ、この部屋には生活感は皆無で、テレビやテーブル、観葉植物……それらすべての代わりに本しかない。


「はは、なんかごめんね」


 僕たちの驚き様を見て、椎奈ははにかんだ笑顔を向けた。


「いやいや、むしろ興奮する」


「ゆずとに同意です」


「そ、そう? なんか、いくら本好きにもこんな部屋はさすがに嫌かなぁって……」


「……まぁ、すっごく落ち着かないけどね」


「だよね~~」


 一旦同意した椎奈は居間の隣にあるふすまをガラガラと開ける。


「一応、私の部屋はここなんだけど……」


 ココだけは的もだよって言う感じの顔でふすまを開くがそこに広がっていたのはまたおかしな光景だった。


「——お、おぉ」

「——これもまた」


 さすがに二度目なので驚きはしなかったが、それでも衝撃的であるのは間違えなかった。


 真ん中にはこたつ(毛布なし)がぽつんと置かれ、6畳ほどの部屋を囲むようにして本が積み上げられていた。本も多いが、漫画もかなり置かれていてここは物置か何かだと錯覚させるほどに散らかっている。


「——あぁ、掃除忘れてた」


「だよな」


「うん」


「だ、大丈夫?」


「いやぁ僕は大丈夫だけど、椎奈がいいのか?」


「え、わたし?」


「普通に……女子高生が、汚い自室を見せていいのかなって……」


 数秒の沈黙を経て、彼女は「ちょっと待って!」と大袈裟にふすまを閉じて掃除を開始した。


 ドガガガガ、グチャ、ベチャ、バキンッ‼‼‼‼


「な、何してるんだ」


「掃除……ではないみたいですね」


「ああ、どんだけ焦ってんだ……」


 そこから数分間、僕と四葉は図書館のようなリビングを回って時間を潰したのだった。

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