第7話 「図書館の少女」 その2
土日が過ぎれば、あの話も忘れかけていた。
忘れたわけではなく、まあそんな過去の秘密もあったということだ。何かあれば、しっかり言えばいいし、狙いが僕たちではないのなら、それでいいと思っているし、そんな感じで気にするだけ無駄なのかもしれない。
「四葉、いくぞ~~」
「ちょっと、トイレ行きま~~」
「……了解」
よれた半そでのポロシャツに袖を通し、着古した紺色交じりの学ランに身を包ませて、僕は玄関で運動靴を履く。革靴は性に合わないため、愛用しているのはアディダスの準新作の白黒ベースのシンプル目な靴だった。
「ふぅ……じゃあ、行ってきます」
「ちょっと待て」
「へ?」
すっとぼけたような声を出す四葉のリボンが少しだけ曲がっていて、それを多少調整すると、彼女はもじもじと身を軽くよじり、静かに言う。
「……あ、ありがとぉ」
「うん、じゃあ、行ってきます」
「は~~い、気を付けてね~~!」
徐々に聞き慣れつつあった
——☆☆
「よ! 洞野兄妹‼」
「「!?」」
「お~~シンクロ率100%だな!」
玄関で靴を履き替えていると前沢が声を掛けてきた。
「おはよう、二人とも」
その隣には、お姉さんのような優しい笑みを浮かべる西島咲がいて、心がギュッと引き締まるが、どうやらその画を見て分かる通り、更生しつつある彼女が狙っているのはこの男らしい。
まったく、難儀なものである。
「おはようございます、前沢と西島さん」
「なんで俺だけ……呼び捨て?」
「うううぅうう」
犬のように唸る四葉。
「まあ、あんなことあったらな」
「ちぇ、まだ根に持ってるのかよ」
「いや、あれはお前らが……というより僕が怖かった。もう、してほしくはないね」
「……それはすまん」
ばつが悪そうに笑う彼に返す言葉はない。
「じゃ行くか」
「いや、なんか言ってよ!!」
「うるせえ、さっさと行くぞ」
「ゆずく、柚人はなんでそんなに急いでるんですか?」
「ん?」
「確かにな、柚人は妙に焦ってるしな」
「目立ちたくないんだよ」
「え、それだけ?」
「ああ」
すると、彼女は僕のことを見透かしたような目で正解を言い放つ。
「今日は役員決めがあるからね」
「ああ、西島さんの言うとおりだ。こんなところで目立っては先生にやらされかねないってことだからな」
「ああ~~」
「そう言うことでしたか……」
頷く一同に、ああ、と返し、教室へ向かった。
そうだ、僕は目立ちたくはない。なるべく陰でゆっくり生きていたいたちなのだ。それが文芸部で脅かされ——まあ、まだ四葉がいる分いいのだが、役員になってしまえばそれもままならない。何より、うちのクラスの担任は気ままだから、もしも遅く来てしまえば役員にされかねない。
これを阻止するため、僕はいち早く教室へ入るのだ!!
「まあ、関係ないけどな……うちのクラスの担任は去年からくじ引きで決めてたけどな」
思考が止まる。
「え?」
「確かにね、そうだったよね、去年のうちのクラスは」
「そうなんですか?」
背筋に、冷たい汗がぞわりと垂れていく。
「まじで?」
「ああ」
——☆☆
そんな茶番も束の間。
結果は見なくても、言わずとも、分かり切ったものだった。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
@ クラス委員長:斎藤
@ 副委員長:西島
@ 生活委員:吉田
@ 健康委員:木村
@ 図書委員:洞野(柚)
@ 文化委員:光野
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黒板には、無造作にもこう書かれているのだった。
「なんで、だぁぁああ‼‼」
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