第二章 陰キャな私と、優しい君と。
第7話 「図書館の少女」 その1
その日は一切合切、遊びに集中できなかった。
彼に言われたことが嘘なのではないかと思うほどに、西島咲はまったく危ないようには見えなかったからだ。
だが、彼の言うところだとまだそれは完治してないらしい。それも、警察が出てきたと言っても、彼女はまだ高校生であり、少年法で守られている。結局は注意されて本人に謝ることで一件は落着した。
反省はしているが、解決には至っていないのだ。
「どうしたの? 柚人くん?」
「ん? あ、いや……なんでも」
「ふ~~ん」
そんな何気ない会話に、背筋が凍る。
何か企んでいるのではないか?
それとも狙っているのではないか?
そんなあられもないような変な予測がポンポンと頭に浮かんでいくのだった。
————☆☆
朝起きても、それは続く。
居心地の悪さに僕は耐えきれず、部屋を出る。
「三森さん、ちょっと散歩してきます」
「ん、ええ、いってらっしゃい」
ガチャ
時計を見ると、時間は「8:00」で、土曜の朝にしては早い時間のため、いつもよりは人通りや車も少ない。
「はぁ……」
中々と言ってもいいほど、肩の荷は下りなかった。
あの雰囲気とストレスに僕の体が悲鳴を上げ、足取りは重い。一歩前に出すとビュンっと車が一台。
風切り音を肌身に感じて、もう一歩。やはりは朝は気持ちがいい。
体は重かろうが、朝という物自体は心を洗浄してくれる気がする。
「——ゆずくん!」
声が聞こえた。
間違えようのない、
「っはぁ、っはぁ……よ、つばも……いっくぅ……」
「あ、ああ……」
急な出来事怯んでしまった僕は、四葉が膝に手をつく姿をゆっくりと眺めていた。
「大丈夫か?」
「う、っうん……」
少しずつ呼吸を整えて、言葉をそろえる彼女。
「……すぅ、はぁーー」
「……」
「……よし、大丈夫! 行きましょう‼」
「お、おう」
またもや、急な彼女の元気さに面を食らう僕だったが、笑って目を見る。少しだけ頬が朱に染まるのが見えて、僕もニコッと笑う。
「昨日」
「え? きのう?」
「昨日の事です」
「あ、うん……」
「なんか楽しくなさそうだったから、どうかしたのかなと思いまして……」
「いや、別にそんなことはないけれどなぁ」
「だって、カラオケ行った時も何回も下向いてたし、考え事で押してるのかなって……」
確かに、四葉の言うとおりだった
僕はあの事を聞いて楽しむことはできなかった。歌を歌えば忘れるんじゃないかと思ったけれど、なかなか忘れられないのも事実。
四葉には危険が及ばないか、僕は狙われないか、でも、今の標的は少なくとも僕たちではないらしい。
ただ、それを聞いたところで根底は揺るがなかった。
そんな心の中での討論を見抜く女の子はやはりすごい。女の勘は舐めることなどできないほどに日本刀のように鋭く、
「まあ、そんな大きなことじゃないよ……ちょっとだけ授業のことでね」
「そうなの?」
「うん、ベクトルの公式を少し思い出してただけだよ」
「ならいいのだけれど……」
沈黙して。
「いや、そんなこと考えないでしょ‼」
小鳥のさえずりが終わった途端、四葉の叫び声が朝の晴天に放たれた。
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