第3話 「妹ですが?」


 四葉には兄がいます。

 兄と言っても、義兄で、この前まではただの幼馴染でした。


 名前は「洞野柚人ほらのゆずと」と言って、小学生の頃はよく遊んでいた気が……します。細身で目つきが結構悪く、一見頼りなさそうな人。でも、よつばn——いや、皆に優しい人でした。本当に、いつも優しいし、何か辛そうにしていれば声を掛けに来てくれる、すごく思いやりのあるいい兄です。


「っはぁ、っはぁ」


 事実。

 いや、これが優しさというのかは分からないけれど——こうして兄の肩に担がれて、校門から玄関までの道のりをゆらゆらと運ばれてます。


「ぅぅまってぇぇ! よんちゃああああああああん‼‼」


 うん、後ろでニコニコとこちらへ向かって走っているのは悪魔と言ってもいいくらいの形相だった。なんと言えばいいのか分からないほどに女の子が好きな、いわゆる百合な先輩。


 詩音先輩は四葉が所属する文芸部の部長で、三年の絶賛受験生。


 勉強ができるらしく、期末試験では学年5位圏内には必ず入っていて、大学共通テスト模試でも、この時点でA判定という偉業を為しているほど。極めつけには内申点も良く、推薦枠ももらっている完璧な人で、四葉には程遠い存在です。どんなに四葉が頑張ってもとどくはずのない完璧な人に今、追いかけられていました。


「ゆずとっ、痛いでっ、すっ!」

「ああっ? ごめ、んなっ、今、それどこ、ろじゃっ!」

「ううっ、よつばっおなか、いたっ!」

「えっ、あ! ごめん!」

「うえぇっ」


 お腹が痛い、今朝から調子が悪いというより、この生活が始まってからずっとお腹を壊し続けています。なんでだろうという疑問とともに、悪魔が、四葉のことが大好きな悪魔先輩がそこまで迫ってきていました。


「よん、ちゃあああん? そこだねぇえ?」


 この場を避けて通っていく生徒たちの目が痛々しい、さらには四葉のお腹も痛い。もうすこしであれなのに、こんな不幸に飲まれるなんて本当についていないかもしれないです……。


「うう、しおん、先輩」

「ん?」

「お腹痛い、です」

「え、ほんと!? え、ああ、どうしよ、えあああ、あ、私、ごめん……」

「あ、いや、だいじょうぶです、そのゆっくり」


 四葉の背中を優しく揺する詩音先輩、そう。

 この人は根はとてもいい人なんだだけれど。ちょっといけないところがあるんです。


 そろそろ分かってくれたみたいだし、早くゆずとと一緒にクラス分け表を見に行かないと。


「よい、っしょ」


 未だ治らないお腹の痛みに堪えながら、四葉は立ちます。すると、先輩の反対側から今度はゆずく、ゆずとが背中を擦ってきました。


「だいじょうぶか?」

「う、うん」

「ゆっくりでいいからな」


 二人に囲まれているのを友達に見られるのは恥ずかしいですが、こうやって優しくされているのを感じればちょっと嬉しい。


 幸せを感じながら、学校の玄関へ向かった朝がありました。

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