第156話:夕食に来たんだが④

「ふっ、そう来なくっちゃな。皆の前で赤っ恥かかせてやるぜ」


 そう言い、カインは食堂内を移動。


「こっちだ」


 手招きする方へ行くと、そこには小さな机と椅子が置かれていた。


「勝負と聞いたはずだが?」


 室内で暴れると食堂に迷惑がかかる。てっきり外に移動するものだとばかり思っていたのだが。


「ん? お前なんの勝負だと思ってんだ?」


 眉を上げ、意味がわからないとばかりに不思議そうな顔をするカイン。


「決闘するんじゃないのか?」


 そう答えると——


「ガハハハハ! 何言ってんだテメー! そんなんやって怪我でもすりゃ明日仕事になんねーだろ!」


 こんなイカつい見た目からは想像できないほど愉快そうに笑うカイン。


「勝負ってのは腕相撲だ。知らねえか? う・で・ず・も・う」


 なんだ、ただの腕相撲かよ……。勝負と聞いて身構えた自分が恥ずかしくなる。いや、まあ確かに勝負の内容を聞かなかった俺が悪いのだが。


「……大丈夫だ。ルールは分かってる」


「んじゃ、始めようぜ」


 目をギラつかせ、席につくカイン。


 周りにはギャラリーも集まっていた。


 数にして約五十人。


 冒険者だけじゃなく、食堂の店員も見物に来ている。


「カインさんが勝負とは面白え。久しぶりじゃね?」


「あの少年、可哀想に。まあ目立っちまったのが悪いんだが」


「これまでカインさんに勝った冒険者は一人としていねえもんな」


 どうやらカインは自称でけでなく他称でもこの村で最強のようだ。


 だが、負ける気はしない。


 俺は静かに勝負の席についた。


 ミーシャの強化魔法はないが、『神の加護』はある。


 それに、なぜだかわからないが俺は転生したことで極端に高い『賢者』のステータスを手に入れることができた。


 現代日本では見た目からわかる筋肉だけで勝敗が決してしまうが、そうとは限らないのが異世界なのだ。


 先にカインのステータスを確認しておいてもいいが……それはフェアじゃない。やめておこう。


 いつの間にかレフェリー役の冒険者が俺たちの席についており——


「始め!」


 俺とカインの拳と拳の語り合い(腕相撲)が始まった!


 作戦はこうだ。


 最初は様子見。初めから畳み掛けると、カウンターをかけられる可能性がある。カインの力量を把握するまでは慎重になるべきだ。


 力量を把握してからはなるべく俺の全力を悟られないようジリジリと攻めていき、亀甲したところで一気に畳み掛ける。


 これで勝てるはずだ。


「……むむ、なんだと!?」


 俺とは逆に、勝負が始まってすぐに仕掛けてきたカイン。俺は最初こそやや押されたものの、すぐに押し返した。


 カインの額からは汗が滲み、歯を食いしばっている。


 ここで俺は確信した。


 これがカインの全力、あるいは全力に近いパワーなのだと。


 これなら勝てる。


 俺はニヤリと口角を上げ、第二フェーズに入った。


 徐々に腕に力を入れていき、ジリジリとカインを押す。


「ほう……ここまでやるとはな。見上げた腕力だ」


「そりゃどうも」


「だが、ユーキ……俺の勝ちだ」


 さっき名前を聞かれて名乗ったが、ここで初めて『お前』ではなく名前で呼ばれた。少し認めてくれたのだろうか?


 それはともかく。


 勝利宣言をした後、さらに力を加えてきたカイン。


 まだカインも全ての力を出し切ってはいなかったようだ。


「んぐぐぐぐぐ……!」


 顔が歪み、かなり苦しそうなカイン。顔を真っ赤にさせている。


 拮抗する俺とカインの右腕。


 これがカインの正真正銘の全力で間違いない。


 そうと決まれば、こっちも最後の仕掛けを始める時間だ。


「全力を隠していたのは、自分だけだとでも思ったか?」


「な、なに!?」


「この勝負、もらった」


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どこでもヤングチャンピオンにてコミカライズ8話掲載されています。

ニコニコ漫画で無料話7話前半更新されています。

ぜひ読んでみてください。

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