第155話:夕食に来たんだが③
そんなこんなで楽しい(?)夕食を終え、席を立とうとしたその時だった。
「おい、見ねえ顔だな?」
身長百九十センチはあるだろう大男が俺に話しかけてきた。目つきが鋭く、頭は毛穴が見えないスキンヘッド。体格もかなりガッチリしており、大きな筋肉があることは容易に想像できる。
おそらくこの地域を拠点にしている冒険者なのだろう。
「ああ、この村に来たのは初めてなんだ」
俺の身分を明かす必要はないし、事実ではあるのでそのように答えた。
「やはりそうか。……俺はカイン、この村の冒険者で一番の剣士だ。俺は大抵のことは気にしねえが、身に余るものを見たもんでな。お前、名前は?」
「……ユーキだ」
大衆食堂とはいえ、少し騒ぎすぎたので注意に来たのかもしれない。
「ちょっと騒ぎすぎた。悪かったな」
と、頭を下げたのだが——
「バカでけえ声出してんのはお前らだけじゃねえよ。それはどうでもいい」
なんだ、違うのか。
じゃあ何に対して怒ってるんだ?
「いいか、ここは女連れでくるような場所じゃねえんだよ」
「え? 女を入れちゃダメなのか?」
女性入店禁止のような張り紙はなかったはずだが……。それに、食堂内には女性冒険者の姿も見られる。
「そういう意味じゃない。四人はお前の仲間か?」
「ああ」
「む……そうか」
次に出てくるであろう言葉を引っ込めたような反応。具体的に何が言いたかったのかについてはよくわからないが。
「女がいるのは構わんが、キャピキャピと男女で楽しく食うとかそういうのじゃねえってことだ」
こんな大男からまさか『キャピキャピ』なんて言葉が出てくるとは思わなかった。俺が衝撃を受けている中、カインは話を続ける。
「いいか、よく聞け。この食堂にはな、冒険者が集まってるんだ。冒険者が集まる食堂ってのは、もっと殺伐としているべきだと思わないか?」
「そ、そうなのか……?」
俺にはない考え方だったので、思わず目が点になってしまう。
少なくともオズワルド王国とヴィラーズ帝国の冒険者にこのような文化はないはずだが……ここではあるのかもしれない。
「そうだ。五人でシェアとか、あーんとか、ペット連れとか、そういうとこじゃねえんだよ」
眉間に皺を寄せるカイン。
「向かいに座った席の冒険者といつ喧嘩になるかもわかんねえ……そういう雰囲気がいいんだろうが! 違うか!」
お、おう……?
まあ、なんというか言いたいことは多少わからなくもない。
普段のこの空間はもっとむさ苦しく華のないものなのだろう。俺たちの行動により馴染みのない雰囲気にしたことでカインに言葉にできないストレスを感じさせた……と捉えれば良いのだうか。
「そ、それは悪かったな」
ハハ……と苦笑いする俺。
「晩飯一つとっても遊びじゃねえんだよ。お前、悪いと思ってねえだろ!」
そりゃ悪いとは思ってねえよ!
……と言いたいところだが、その地域の考え方というものがある。部外者である俺がそれを否定するのはおかしい。
なので、グッと堪えた。
「まあいい。お前、俺と勝負しろ」
「勝負……?」
「冒険者ってのは拳で語るもんだ。この村で最強の俺に勝てば認めてやるよ。あーんでもなんでも、好きにやりゃあいい。それとも、女の前で俺と勝負する度胸がねえってか?」
ニタニタと笑みを浮かべるカイン。
いつの間にか、俺が好き好んであーんをしていることになっている。訂正しておきたいのだが、そんな隙は与えてくれそうにないな……。
「ユーキ、やりましょう!」
アレリアが俺の手を腕を握りながらそんなことを言う。
他人事だと思ってめちゃくちゃ楽しそうだ。
「言われっぱなしでいいの? やりなさいよ」
「ユーキ君なら大丈夫だよ! 応援してる!」
「ユーキ、冒険者だから拳で語らないと」
アイナ、ミーシャ、アリスも止めるどころか煽ってきやがる……。
はあ、やれやれ。
とてもじゃないが、断れる雰囲気じゃなさそうだ。
「わかったよ。勝負でもなんでも。やろう」
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