第154話:夕食に来たんだが②

 食堂の中は、ほとんどが冒険者。なかなか賑わっている。


 なんか、食事中の冒険者に睨まれた気がするが、気のせいだろう。初対面の人間に対して敵意を向ける文化はないはずだ。


 内装は冒険者ギルドに似た木目調の地味なものだが、きちんと清掃されていて清潔感はバッチリである。


 多種多様のメニューが書かれてる掲示板を眺めながら、今日の食事を選ぶことに。メニューにはそれぞれ大盛りと普通が用意されており、少なめの設定はない。あまり需要がないのだろう。


「ステーキ……ハンバーグ……エビフライ……悩みますね」


「無限に食べられたらいいんだけどね」


 アレリアとミーシャが頭を悩ませていた。言葉には出していないが、アイナとアリスも同じことを思っていそうだ。


「じゃあ、食べたいもの全部注文してシェアすればいいんじゃないか? それなら少しずつ色々食べられるぞ」


 俺がそんな提案をすると——


「あ〜! その手がありましたね!」


 名案だとばかりにパチンと手を叩くアレリア。


 方針は固まったようだった。


 たくさんのメニューを一つずつ注文し、席に着く。


 料理の見た目自体は王国で食べられるものとさほど変わらなかったが、空腹だったこともあり、めちゃくちゃ美味しそうに見えた。


「美味しいです〜!」


「うん、味付けにこだわりを感じるわね」


「こういうのもすごくいい〜!」


「すごく安心できる味。でも、それがいい」


 それぞれ、アレリア、アイナ、ミーシャ、アリス。


 俺も同じ感想だった。


「スイも食べる〜」


「オレも!」


 ペット不可とは書いていなかったので、スイとアースも連れて入っている。アレリアがスイに、アイナがアースに、分担して食べさせている。


 楽しそうに食べる四人を眺める俺だったのだが——


「ん、あーん」


 いきなり口の中にハンバーグが放り込まれた。


「んん……な、なんだアリス!?」


「美味しい?」


「うん、まあ」


 不意打ちだったので味わう暇はなかった。でも、イタズラが成功して楽しそうなアリスを見ているとどうでも良いか……という気持ちになる。


「あ、ずるいです!」


「アリス……抜け駆けするタイプだったの? へえ……」


「うらやま……ダメだよ! ユーキ君が喉詰まらせたらどうするの!?」


 何がずるいのか、何が抜け駆けなのか、何が羨ましいのかまったくわからないのだが、よくわからない方向でアリスを除く三人が怒り始めてしまった。


「そういうことするなら……私にも考えがありますからね!」


 アレリアはアリスよりも少し多い量をスプーンにとり、何をするかと思えば——


「んぐっ!」


 俺の口に強引に押し込んだのだった。


「私の方が多いです。これで上書きされました!」


 なぜかご機嫌になるアレリア。


 そして、これがきっかけになり地獄が始まったのである。


「んんんんんっ!!」


 アイナとミーシャも対抗するように同じことを始めてしまった……。


 しかも、さっきのアレリアよりもちょっとだけ量が多い。


 食べさせる量でマウント取ってどうするんだよこいつら……。

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