第141話:パーティの危機②
アインたち一行の本当のランクはCだった。ギルドカードを闇業者から購入し、ギルドを騙したことで不正にBランクの依頼を受けてここに来ている。
アインたちも、不正に造られたギルドカードを利用してはいけないことは理解していたし、罪悪感もあった。
むしろ、そういった不正をする輩のことを許せないと思うような善良な冒険者だった。
だが、彼らにはそれでも不正をしなければならない理由があった。
このパーティの回復役を担う回復術師アイリス。
彼女が一昨日、討伐依頼の途中で大怪我を負ってしまった。
即死は免れたものの、出血が激しく瀕死の状態。気を失った彼女にアインたちは生命力ポーションを無理やり飲ませることで延命したが、根本的な解決にはならなかった。
生命力ポーションで高めた治癒力と怪我での消耗が拮抗すると、現状維持にしかならない。
ジリジリと消耗するアイリス。放っておけば確実に死ぬ。
助かるには、高ランクの回復術師による回復魔法しかない。しかし、それには多額の報酬を支払う必要がある。
——治療費は金貨五十枚。
一秒でも早く治療費を集めるためには、ランクを偽り一度に多額の報酬を狙えるBランク依頼をこなすほかなかった。
「そうだな……取り乱してすまなかった」
アインは二人に謝罪し、地面に突き刺していた剣を引き抜く。
「次の敵……急ぐぞ!」
「おう。あと九体……さっさと片付けようぜ」
渓谷を進み、先ほどと同様に一体のオークに狙いを定めるアイン。
「いくぞ!」
そう言い、オークに向かって飛び込むアイン。
「ま、待て!」
ハルクが声を荒らげるが、アインは既にオークの間合いに入ってしまっている。今更引き返すことはできない。
キンッ!
アインの剣とオークの槍がぶつかる金属音。
「なんだ! どうした!」
「崖を見ろ! オークがいる!」
「な、なんだと!?」
オークの攻撃を耐えるので精一杯の中、アインは視線を右サイドの崖に移す。
そこには、崖の上からこちらをジッと覗き込むオークの姿があった。
これだけでもギョッとしてしまうが、その姿は通常のオークとは違うものだった。身体が二倍のサイズ。頭の上には石の王冠が乗っている。
「ま、まさか……オークキングか!」
オークキングとは、オークの生息エリア内に必ず一匹存在するボス。非常に知能が高く、オークキングが率いるオーク軍団は統率の取れた優れた戦いをするとのことで有名だった。
広い生息エリアの中でたまたま遭遇する確率は低いとタカをくくっていたアインたちにとっては誤算だった。
「くそ、あちこちから湧いて来やがる……」
ハルクは魔法師であるルーリエを守るため周りを警戒している。
もはや撤退しかありえない状況だが、移動できる全ての方向からゾロゾロと大量のオークが近づいてくる。崖からも大量に降りてくるオークの姿。
全て合わせると、優に百体は超えている。
「わからない……どうすればいいんだ……!」
頭を抱えるアイン。
圧倒的な力の差。
戦っても、逃げても殺されてしまうことは明らか。絶望的な状況を前にして、頭が真っ白になってしまうのだった——
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