第139話:依頼を受けに来たんだが③

「はい。でも既に出発してしまったので今更取り消しはできないんです。確証がないのと、仮にランクを詐称していたとしても冒険者側に非があるので私が気にする必要はないと言われました」


 ギルドマスターの対応は冷たいようにも思えるが、冒険者は命懸けの仕事。自分の命の管理を他人に任せるようではダメだと言いたいのだろう。


 仮に命を落とす結果になったとしても冒険者自身の責任——正論ではあるが、自分が気づいておけば良かったというのがこの子の悩みの種か。


「事情はわかった。じゃあ、俺たちが様子を見てくるよ。必ず生きて帰らせる。その後説教してやってくれ」


 アレリア、アイナ、ミーシャ、アリスの四人を見る。全員が頷いていた。


「え? でも……」


「今日はもともとアリスの肩慣らしが目的なんだ。そのついでに様子を見に行くってだけだよ」


 そう説明するが、受付嬢の顔の曇りは晴れなかった。


 まだ、何か他に思うことがあるのだろうか。


「ダメです。ユーキさんが強いことも、みなさんが強いことも知っています。……でも、王都の門を出れば魔物がいる以上リスクはゼロじゃないんです。リスクを引き受けていただく代わりに我々は依頼を発注し、成果報酬をお支払いしています。無闇に冒険者を危険に晒すわけにはいきません」


「……そうか、わかった」


 ギルドの職員というのはここまで冒険者のことを考えてくれていたのか。


 この受付嬢が特別だという可能性もあるが、冒険者とギルドの目指す方向は同じ。ギルドとしても冒険者を大切にしたいということか。


 冒険者をランクに分けて難易度をわかりやすくしているのもその一面なのだろう。


 しかし、これを聞いてますます放っておけなくなった。俺はダメと言われるとやりたくなってしまう性なのだ。


「えっと……あんた名前、なんだっけ」


「私ですか? ハルカ……ハルカ・リーズランスですけど……」


 ポカンとした様子で答える受付嬢。


「ハルカ、あんたが依頼を出してくれ」


「え……?」


「冒険者は基本的にギルドから依頼を受けるが、専属契約を結んでいるわけじゃない。実際、ギルドを通さず護衛の依頼を受ける冒険者はそこそこいる。ハルカが依頼を出してくれるなら、冒険者としてそれに応えるよ」


「な、なるほど……それなら。でも報酬が……」


 いらないって言っても聞かないだろうから——


「それに関しては、一つ頼みたいことがある。詳しくは後で話すよ。今は依頼を出してくれるかどうかを聞きたいんだ」


 ノーと言わせない目力でハルカを覗き込む俺。


「……お、お願いできますか?」


 ちょっとびっくりさせてしまったが、求めていた答えを引き出すことができた。


「任せてくれ」

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