第117話:電話がかかってきたんだが
◇
帝国のクーデターの件が落ち着いてから、俺は改良した通信結晶を新生オズワルド王国の国王レグルスに送っていた。
王国と帝国との間の距離は千キロほど離れている。
従来の通信結晶ではこの長距離を障害物を突破しながらの通信はできない。だが、俺はとある工夫をすることで可能にしていた。
通信結晶は互いの結晶が出す魔力の波が衝突した際の反応を利用して通信を可能にするもの。
障害物が少ない空へ惑星の軌道上に浮かべる中継機を打ち上げることで、大幅に通信可能距離を伸ばすことができた。
理論上は無数の中継機によるネットワーク網を構築できさえすれば、世界中のどこにいても通信が可能になる。
「聞こえるか?」
「ああ、問題ない」
通信結晶を使ってレグルスと通話するのは初めて。
実際に声が聞こえるまで上手くいっているか不安が拭えなかったが、上手く機能しているようでなによりだ。
当初の予定よりも滞在期間が長くなったものの、今日の定例会議はリモートでどうにかなりそうだ。
事前にレグルスにはここ数日の経緯は伝えてある。
通信結晶と一緒に送った手紙の中に、ヴィラーズ帝国内で起こったカタンの騒動に関しても記していたのだ。
「まさかユーキが行ったタイミングでこんなことになるとはな……」
ヴィラーズ帝国はこれまで平和そのものだった。
カタンの存在の有無に関わらずクーデター計画自体はあったようだが、俺がたまたま訪れたタイミングで表に出てきたのは不運としか言いようがない。
とはいえ、ある意味オズワルド王国の立場としては攻撃を未然に防げたという面で幸運だったとも言えるのだが。
「まあ、そういうこともあるさ。それより、他の勇者に関しては何か動きはないか?」
「こちらでも調査は始めているんだが、今のところは特に何も……って感じだな」
俺からは何も指示していないのだが、レグルスは先回りして動いてくれていたらしい。
有事の際でもしっかりと国王という立場が板についてきたようだ。
「何事もなければいいんだが……引き続き調査を続けてくれ」
「ああ、分かった」
帝国側ではカタンの取り調べが連日行われているが、結局のところ、俺への恨みだけでここまで暴走したと聞いている。
心を入れ替え、反省している可能性もあるが、カタン以外の勇者たちも何か良からぬことを考えている可能性は十分に考えられる。
今まで以上に警戒する必要があるだろう。
現状では分かっている情報があまりにも少ない。
一旦、カタンの件に関してはここで終わり、今後の王国運営に関しての会議に移る。
三十分ほどで通信を完了した。
「ユーキ、今通話していたのはもしかしてレグルスさんですか?」
通話が終わったタイミングで、興味深そうにアレリアが顔を覗き込んできた。
「ああ、定例会議だ」
「レグルスさんは王都にいるんですよね?」
「その件について話すとちょっと長くなるんだが……」
リビングルームに戻り、椅子に座りながら改良した通信結晶について話す。
情報共有しておいた方が今後便利なこともあるだろうと想像できるので、丁寧に説明した。
「さすがはユーキです!」
「よく分からないけど、すごいと思うわ」
「そ、そんなことできるんだ……。ユーキ君って本当に多才すぎだよ!」
アレリアはいつも通りの反応といった感じだが、まだ出会って間もないミーシャはかなり驚いていた。
アイナは通信結晶自体が詳しくないためか、よく分かっていない様子。
これで結婚関連の話は一旦流れたかと油断した矢先——
「では、定例会議も終わったところで、ユーキが誰を選ぶのかゆっくり聞きましょうか!」
と、アレリア。
どうやら三人とも忘れていなかったようで、地獄の時間が再開したのだった……。
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