第103話:教えることになったんだが②
◇
ユリウスさんが毎朝剣の練習をしているという場所に連れてこられた。
床が畳ではなく普通に木であるということを除けば、一般的な日本の剣道場と似たような印象を受ける。
上部には『雲外蒼天』という意味の熟語が額縁の中に納められ設置されている。
なお、異世界でも剣道場では右から左に読む慣習は同じらしい。
「早速なんだが、素振りを見せてもらっても良いか?」
「ええ、今やります」
しかし——剣の指導なんて引き受けたものの、俺は人に教えられるほど真剣に修行をこなして強くなってきたわけじゃない。
転生したら急にステータスが優遇され、身のこなしに関しては感覚的にできるようになった。
アイナの時もそうだったが、こんな俺に教えられることなんてあるのだろうか?
そんなことを思いながら、俺はアイテムスロットから魔剣を取り出し、素振りをしてみる。
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
合計で十回ほど実演してみた。
「どうでしょうか」
「す、素晴らしいな……。見たことのないフォームだが、極限まで洗練されていて、まったく隙がない……」
どうやら、評価はしてもらえたようだ。
「よし、俺もやってみるぞ」
そう言って、剣を振るユリウスさん。
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
俺の時と同様に十回を終えると、剣を下ろした。
「なんか、違う気がするんだよなぁ。やっぱりパワーとスピードがたりてないのか……? キレがない気がするんだよな」
「そうですね……。俺との違いを挙げるだけになりますが、もう少し腰を使って踏ん張るようにして、軸を押さえた上で踏み込むと近いものになるかもしれません」
「……なるほど!」
思ったまま言っただけなのだが、ユリウスさんは何か気づきを得たらしい。
もう一度素振りをするユリウスさん。
ブンッ! ブンッ!ブンッ!
十回目を終え——
「おお……上手くなってる! 上手くなってるぞ……!」
「ええ、大分キレのある動きになったと思います。すごいですよ、この短時間でモノにしてしまうなんて……」
そういえば、アレリアも妙に覚えが良かったな。
この辺はユリウスさん譲りのものだったのかもしれない。
「よし、今日の素振りはこれで終わりだ!」
ようやく解放される——と思ったのも束の間。
ユリウスさんは「あっ」と言って、手をポンと叩いた。
「せっかくの機会だ。軽く手合わせしてくれないか?」
「手合わせ……ですか?」
「うむ、模擬試合をお願いしたい。素振りだけでも得るものは大きかったが、やはり実際に手合わせしないことにはすぐに忘れてしまいそうでな」
「なるほど……それは大事ですね」
アグレッシブというかなんというか。
すごく向上心があるらしい。
正直面倒だなと思っていたが、こうして求められると悪い気はしないな。
……というか、この人の性格によるものもあるかもしれない。
ユリウスさんは、皇帝とは思えないほどに愛嬌があるように感じる。
「では、俺に剣を貸してくれますか?」
「剣を……? それを使わないのか?」
「俺の剣は……強すぎます。やめておいた方が良いです」
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