第102話:教えることになったんだが①

 ◇


 翌日の早朝。


 明るさ的には、午前五時くらいだろうか。


 例によって、俺が早起きしたのだが——


「……⁉︎」


 ひとまず、アレリアが隣で寝ているのは良いだろう。


 いや良くはないのだが、親公認なので許される範疇だ。


 しかし、隣にアイナがいるとはいったいどういうことだろうか。


 確か、昨日は鍵をかけて眠ったはず……。


 アレリアは俺にくっついて寝ていたから、開けたとは思えない。


 部屋の隅を見る。


 スイとアースが仲良く眠っている姿。


 ……なるほど、考えられるとすればそういうことか。


 俺たちが寝ている間に鍵を開けてもらい、アイナもベッドの中に入ってきたと、そういうことか。


 いつもと違う環境だと眠りにくかったのだろう。


 やれやれ。


 良くはないが、仕方がないな……。


 幸い今日は前のように胸を鷲掴みするような格好にはなっていなかった。


 俺の腕をアレリアとアイナがそれぞれ掴んでいるだけだったので、そっと離してベッドを離れた。


 まずは、目覚めの一杯。


 冷たい水で喉を潤し、部屋の外に出た。


 少し外に出て散歩でもしようと思っていたのだが——


「おはようございます」


「おはよう、ユーキ君」


 部屋の前でバッタリとアレリアの父——ユリウス皇帝と鉢合わせてしまった。


「早起きなんだな」


「皇帝の方こそ早いですよ」


「おいおい、俺とユーキ君の関係で皇帝はやめてくれよ?」


「いや、しかし……」


「しかしユーキ君も呼び捨てはしにくいか……その気持ちもよおーくわかる」


 どうやら理解していただけたらしい。


 確かに、今や俺にとってアレリアは婚約者に一番近い存在。


 その家族ともなれば、たとえ皇帝であっても名前で呼ぶべきなのかもしれない。


 ……いや、でもそうなのか?


 正直、例が思い浮かばない。


 何が正解なんだ……?


「でだ、提案しよう。ユーキ君」


「……はい」


「俺のことは『ユリウスさん』と呼んでくれたまえ。分かったな?」


「ユリウスさん……ですか」


「そうだ。このくらいならユーキ君も気にせずに呼べるだろう。親戚のおじさんくらいに思ってくれればいい」


 さすがにそこまでは思えないが、このくらいなら俺としても抵抗はない。


「わかりました。以後そうお呼びします」


「うむ。それでなんだが、ユーキ君」


「なんでしょう?」


「ユーキ君は冒険者なんだったな?」


「ええ」


「職業を聞いてもいいか?」


「賢者です」


 俺がそう答えると、ユリウスさんの顔に疑問符が現れたことが伝わってきた。


 この反応にはもう慣れている。


「あまりいない職業のようです。魔法と剣を両方使えるんですよ」


「ふむ……どちらがメインなんだ?」


「そうですね……どちらも同じくらいの練度ですが、咄嗟に使うのは魔法で、腰を据えて戦うときは剣が多いですね。あまり意識してのことではないですが……」


「おお! ユーキ君は剣を使うのか! これは都合がいい!」


「うん……?」


 なんだか、嫌な予感がするぞ。


「実は俺は毎日剣の練習をしていてね。アレリアに剣を教えたのも、この俺なのさ。偉そうな言い回しで申し訳ないが、もちろん魔族を倒したユーキ君に勝てるとは思っていない」


「はあ」


 話が見えてこないな……。


 と思っていると、答えはすぐにやってきた。


「そこでだ、俺に剣の指導をしてくれないか?」


「え、皇帝……じゃなくユリウスさんにですか⁉︎」


「うむ、嫌なら無理にとは言わないんだが……できれば指導をしてくれるとありがたい」


 ユリウスさんは、真剣に俺の目を見てくる。まるで、少年のように真っ直ぐなように感じた。


「何歳(いくつ)になっても、剣を上手く使えるようになりたいのだ」


「なるほど……わかりました。お役に立てるなら、喜んで」


 こんな経緯で、朝からユリウスさんの剣の指導をすることになってしまった。

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