第95話:本物の大公爵なんだが①
◇
なんやかんやで楽しい空の旅を過ごし、帝都の門の前に到着した。
帝都も円形の城砦都市になっており、周りは塀で囲まれている。
異世界には魔物がいるからなのか、出入り口を最小限にしたいのはどこの国も同じらしい。
王都以外では依然として竜に乗っている姿は知られていないので、帝都の近くで着陸したという形だ。
「スイお疲れ様。ありがとな」
「いいよー。でも帰りはアース担当」
「ぐえっ……わ、わかってるんだナー……」
「なるほど、そういうことにしてたんだな」
特に揉めることなく担当割りが決まった背景には、そんな約束があったらしい。
帝都に入るため、門の前に立っていた門番に話しかける。
まるで冒険者のような無骨なおっさん。
ちょっと話しかけづらいのだが、話しかけないことには始まらない。
「帝都に入りたいんだが」
「む、身分証を見せてみろ」
身分証——冒険者ならギルド証、一般の村人なら住民カードがそれに当たる。
ギルド証はどこかの村で冒険者試験に合格しさえすれば誰でも発行できるものなので、これになんの意味があるのかはわからないのだが、必要だということらしい。
「オズワルド王国の身分証しかないんだが、それでいいか?」
「オズワルド王国だと……? 何をしにきた。目的を聞かせてもらおう」
ドスのきいた声で、言われた。
かなり怪しまれているらしい。
いや、確かに客観的にはかなり怪しいので、門番としては真っ当ではある。真面目な人間なのだろう。
その門番の声で、帝都の中からもう一人の門番が出てきたのだった。
やれやれ、あまり地位をひけらかすのは好きではないのだが、名乗るしかなさそうだ。
「俺はオズワルド王国大公爵の松崎祐樹(まつさきゆうき)だ。
皇帝陛下には既に話が通じているものだと思っていたが」
「オズワルドの大公爵……皇帝陛下だと……⁉︎ いや、確かにそれは……」
門番たちは俺たちに聞こえないように、小声でヒソヒソと仲間同士で相談を始めた。
しかし、俺は小さな声も聞こえちゃうんだよな。異世界に来てから聴覚が鋭くなったのだ。
「ど、どういうことなんだ⁉︎ まだ陛下が使者に手紙を渡されてから五日……どう考えても王国の大公爵はまだ国内のはずだろ?」
「どこからか情報が漏れたんだろうな。つまり、あいつは偽物の可能性が高い」
「そうか! そりゃそうだな。よし、本物にしか出せないアレを要求しよう」
一通り作戦会議を終えたようで、俺たちの方を向く門番。
「もしあんたが本物の大公爵だというなら、陛下がお送りした手紙を見せてみるが良い。ふっ、まあ無理だろうがな。実は陛下からの手紙には帝国の帝印が刻まれているのだ」
「ああ、アレか」
俺はアイテムスロットから手紙を取り出して、手渡す。
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