第89話:お土産を選ぶことになったんだが①
◇
帝国に手紙を送ってから七日後の昼過ぎ。
俺たちのもとに返事の手紙が届いた。
王都からの使者がそのまま返信の手紙を受け取り、急ぎで届けてくれたおかげで、往復一週間の待ち時間で済んだ。
皇帝への手紙には、アレリアを王国側で保護している旨のみを書いた。
アレリアを一度帝国に帰し、大公爵の俺自ら経緯を説明したいという内容だ。
今の状況についても軽く説明してある。
アレリア自身が今のところ王国に滞在したいという意思があることも含めて。
魔法書の件を書くのはあまりに不躾すぎるので、実際に会ってからアレリアに聞いてもらうこととしよう。
「ど、どうでしたか……?」
返事の内容が不安なのか、ソワソワするアレリア。
「落ち着けって。まずは、開けるぞ」
封を切って、手紙を黙読する。
挨拶から始まり、アレリアを保護していることへのお礼が書かれていた。
全てを読み終わってから、肩の力が抜けた。
「会ってもらえるそうだ。あとは、どう説明するか、だな」
アレリアと同じベッドで寝たことだったり、一緒に生活していることをあまりに生々しく説明すれば殺されかねない。上手い説明を考えておかなければ……。
「一安心ですね! それで、いつ行きますか?」
「あ、それも書いてあったよ。いつでも、なるべく早く来て欲しいとのことらしい。それだけアレリアを心配してるということだと思うぞ。……とは言ってもさすがに今日これから向かっても着くのは夜になるだろうし、明日の朝イチで出発って感じかな」
「お父様……お母様……久しぶりに会えるのですね」
一時は帝国には戻らないと言っていたアレリアだが、すごく楽しそうに見えた。
一時帰国だからというのもあるとは思うが、もともと家族のことは気にかけていたのだろう。
俺から見てアレリアはすごく育ちが良いし、大切にされてきたと思う。
アレリアにとっても、こうして家族に会う機会ができたのは結果的に良かったかもしれない。
そんなことを思っていると——
「帝国に行くことも決まったわけですし、久しぶりに商業地区に行きませんか? もちろんみんなで一緒に!」
「何で商業地区……?」
アレリアの提案に、アイナが不思議な顔をする。
アイナも分かっていないな。
アレリアが突飛なことを言い出すのはいつものことだろう。
「久しぶりに戻るんですし、王都のお土産を持っていかないとですよ! 何か美味しいものとか!」
アレリアがこんな呑気なことを言っている間にも親御さんは気が気じゃないないと思うが……まあ、それはいいか。
「ま、でも一理あるな。アレリアが選んでくれたものなら喜んでくれると思うぞ」
「それもそうね」
「わーい、嬉しいです!」
「じゃあ、早速出かけるか。スイ、悪いんだが——」
と言おうとした時。
スイは部屋の隅で寝ているアースの頬を小さな前足……というより手でペチンと叩いていた。
喧嘩だろうか……?
「何してるんだ?」
「アースを起こしてるー。よく考えればスイの方がこいつより偉いのに背中に乗せるのはどう考えてもおかしい」
「ああ、確かに言われてみればそうだな」
ロイジウス領から王都に帰ってくる時も、それからしばらくの間も、俺とアレリア、アイナ、そしてアースがスイに乗せてもらっていた。
竜は縦社会みたいだし、譲れない何かがあるのだろう。
それに、スイの方がアースよりも立場が上だということを差し引いても、スイに負担をかけすぎている。
不満が募るのも理解できる。
「ご主人様のお役には立ちたいけどこういうところはきちんとしたいの〜」
「大丈夫、気持ちは伝わってるよ。今日はアースに頑張ってもらおう」
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