第86話:魔法書が見つかったんだが①

 王都に帰還してからは、ダスト伯爵の処分はレグルスに押し付け……ではなく任せることとして、俺たち三人と二匹はいつもの執務室でだらだらとしていた。


 いや、俺に関しては普通に仕事をしているのだが……。


 あれから変わったことといえばアースがくつろげるスペースを増やしたくらい。


 ここはあくまでも俺の仕事場なので、ちゃんとアレリアとアイナには部屋を用意しているのだが、どういうわけかここに集まるのが好きらしい。


 ずっと俺のもとから離れない。


 まったく不思議である。


 ——二人を眺めていると、とあることを思い出した。


 書類を確認する手を止めて、椅子をくるっと回す。


「そういや、まだ二人に話してないことがあったな」


「話してないことですか……?」


「まさか、新しい女の子とか言わないわよね?」


「それはない」


 アイナはなぜかいつも俺の女関係を気にする癖がある。


 たとえあったとしても、関係ないだろうに。


「実は、王都に戸建てを一つ……新居を用意しようと思ってるんだ」


「え、新居⁉︎」


「ユーキ、結婚するのですか⁉︎」


「いやいや、そんな大袈裟なもんじゃないって」


 というか、新居ってだけで結婚まで結びつくか……?


「さすがにずっと王城に住むってのもやりにくいんだ。仕事とプライベートが曖昧になるしな……」


「なるほどです。……ということは、ユーキは一人暮らしするということですか?」


 アレリアが、少し残念そうな顔をした。


「それなんだけど、二人さえよければシェアハウスにしてもいいかなって思っててさ」


「しぇあはうす……?」


「それって何ですか?」


 二人が同時に疑問を口にする。


 そうか、異世界にはシェアハウスに相当する言葉がないのか……。


 『大陸共通語』のスキルを持つ俺だが、こんな感じでたまにピッタリ伝わる語彙が存在しないことがある。


「シェアハウスっていうのは、一つの家で何人か一緒に生活する住み方を言うんだ」


「宿とは違うのですか……?」


「確かにニュアンスは似てるけど違う。一人ずつちゃんと部屋はあるけど、キッチンとかお風呂とか、そういうものを共有するって感じだな」


 一人で住むことももちろん考えたのだが、実のところ俺は今の生活が気に入っている。


 だから、二人さえ良ければこの形にできないかと考えたというわけだ。


「今と同じ感じなんですね! 私、それ良いと思います!」


「私も、二人がそれで良いなら賛成ね」


 アレリアとアイナの表情がパアッと明るくなる。


 二人が賛成してくれて、ひとまず安心した。


「どの辺にするとかって、もう目星をつけているのですか?」


「いくつか候補はあるよ。えっと確か——」


 コンコンコン。


 メモを探している途中で、ノックの音。


 賑やかなムードから一点。


 途端に部屋の中は静かになった。


 そういえば、役人の定時報告があるんだった。


「どうぞ」

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