第84-85話:伯爵が想像以上だったんだが⑥
◇
スイの背中に乗り、王都に帰還する途中。
「剣を向けられても怒らないどころか、優しく接しられるなんて、ユーキはやっぱり心が広いんですね」
「本当にね。普通、あれはできないわよ」
なぜか、二人からも驚かれていたのだった。
「いや、二人が思ってるような慈悲をかけたってわけじゃないぞ?」
「そうなんですか⁉︎」
「どういうことなの……?」
「うーんとだな。アースによれば、この辺は橋がなくて困ってたって話だろ? 他の村まで食料を運ぶコストが高かったわけだ。それは、村人たちの収入に直結する。村人の収入はロイジウス領の税収にも影響を与える。橋を作るだけで長期的には回りまわって、国庫が潤うようになるんだから、やらない方が損だろう」
「そ、そんなこと考えてたんですか⁉︎」
「それだけじゃない。わざわざ王都から辺境まで人を派遣すれば宿泊費だったり、諸々でめちゃくちゃ金がかかるが、あの兵士たちには金貨二枚渡しておけば気合いを入れて働いてくれるわけだ」
金貨二枚は確かに日雇いの相場としては高めな設定だが、それでも王都から職人以外の人間も含めて派遣するよりは安く済むし、なによりモチベーション高く仕事をしてくれることも見込める。
ロイジウス領は王国最大の食料生産地。
杜撰な工事をされたんじゃたまらないし、そもそも必要な投資なのだ。
「でも、それだけなんですか?」
「何がだ?」
「変な話ですけど、もっと悪いようにもできたはずですよ。前の国王みたいに」
「……まあ、確かにそうかもな」
大公爵へ剣を向けたということは、俺の裁量で死罪にもできる重罪。
もっと手っ取り早く金に変える方法だってあるにはある。
「それなのに、みんな幸せになれる方法に落ち着くのは、やっぱりユーキは優しいんじゃないの?」
アイナまでそんなことを言ってくる。
正直、あの時はそんなことはまったく頭になかった。自然と出てきた発想がこれだったのだ。
「さあ、どうだろうな」
——とだけ返事したのだった。
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