第73話:そこまでは求めてないんだが

 しゅんと身体を丸めて小さくなってしまう黄眼の翼竜。

 スイも同じくらいの大きさのはずだが、こちらの方が随分と大きく見えてしまう。


「責任取らないと勘弁しない」


「ひぇっ、そこをなんとか……」


 俺とアレリア、アイナの三人は互いに顔を見合わせた。

 ここから激しい戦いが始まるのかと思いきや、思わぬ方向に事態が転じようとしていることだけはわかる。

 ……が、それ以外はまったくわからない。


「スイ、どういうことなのか説明してくれるか?」


「ユーキ様、こいつが失礼しました。色々ありまして」


「それは気にしてない。知り合いなのか?」


 俺とスイが出会ったのはつい最近だが、既にスイは齢数千年。

 黄眼の翼竜も同じように古くからいると考えれば、旧知の中だとしても不思議はなかった。


「私が知る限り、この世界には六体の竜が存在しています。六体の竜はほぼ同時に生まれましたが、私が最初に生まれたのです。つまり後輩……こいつは私の弟のようなものなのです。そうだな?」


「は、はい……そうです」


 初めて知る情報なので深掘りしたいことが山ほど出てきたのだが、ひとまず黙って続きを聞くこととしよう。


「こいつは弟であるにもかかわらず私に戦いを挑んだのです。これが人間の歴史書で言う『水黄の竜戦』……です」


 ……と言われても全くピンと来ないのだが、アレリアとアイナは何か知っているのか、ピクッと反応した。


「私それ知ってます! 竜の戦いで山が一つ消えたやつですよね?」


「それなら私も聞いたことはあるわ。山一つどころか今みたいに複数の大陸に分かれたのはその戦いの名残って」


「ええー、そうだったんですか!?」


「あくまで言い伝えよ。子供の頃にそんな昔話を聞いて眠ったものだわ」


 この世界のことをよく知らない俺が言うのもあれだが、山を一つ吹き飛ばした話はともかく大陸を割ったという話はさすがに眉唾だろう。


 この手の話は広まるにつれ誇張されていくものなのだ。

 どちらにせよ、スイの強さはよく知っているのでとんでもない戦いだったということだけは想像できるが。


「いえ、さすがにそんなことにはなっていません。人間の歴史書なんてものはいい加減なものです」


 だろうな。

 と思っていると、まだ話を続けるスイ。


「この世界は少し傾いているという話は聞いたことがありますか?」


「学者が言ってるやつですか? 世界が傾いているおかげで季節があるとか……」


「そう、あの戦いで私がブレスをちょっとやりすぎてしまいまして、傾きました」


「……マジかよ」


 思わず呟いてしまう。

 しかしこの話が事実だとすると、スイって齢数千年どころか数万、数億年なんじゃないか……?


 いやまあ、竜の感覚的には大差ないのかもしれない。

 カレンダーなんてなかっただろうし、そもそも途中封印されているから微妙だしな。


 というか、そもそも俺が知ってるスイよりかなり強くないか?

 ステータスを見た限りでは俺とスイの差が天文学的なものとは思えない。

 となれば、今のスイはなんらかの原因で弱体化している可能性があるのか?


 それとも、今の俺でも地軸を傾けることくらいはできるということか?

 様々な疑問が頭を巡る中、スイからとんでもない言葉が飛び込んできた。


「あの戦いで、私とこいつの序列は確定したのです。なので、生かすも殺すも私の自由。私の選択肢はご主人様にあります。どうしますか?」


「え!?」


 そこで俺に話が飛んでくるのかよ……まいったな。


「いや、まあ……俺としては黄眼の翼竜には怒りを沈めてもらって、この辺一帯の砂漠化を止めてくれたらそれでいいんだが」


「その後の処遇はいかように?」


 ……と言われてもな。

 突然のことだったし、何か良いプランがすぐに思い浮かぶわけでもない。


「スイに任せるよ。好きにしてくれ」


「わかりました。では、命ずる。お前は無礼を反省し、私とともにご主人様に尽くせ。分かったな?」


「はい、わかりました先輩!」


「え……は!?」


 任せるとは言ったが、さすがにそれは予想外すぎる。

 というか、二つ返事で快諾するなよ!?

 黄眼の翼竜よ、お前の意思はないのか?


「……とのことです。こいつに名前を」


「名前の前に確認しておきたいんだが、黄眼の翼竜……お前もスイみたいに小さくなれるのか? さすがにその図体だとな……」


「大丈夫です! 私、小さくなります!」


 答えると、瞬時にスイと同じくらいの大きさまで縮小した。

 これならベビードラゴンみたいで可愛いと言えるくらいの大きさではある。


 ひとまずサイズ的にはクリアだ。

 

「二人とも、新しいペット候補なんだが……飼ってもいいか?」


「スイちゃんがもう一匹増える感じなら私は問題ないですよ!」


「私も反対するわけがないわ。敵としては恐ろしいけど、味方なら頼もしいわね……」


 ……ということは、良いってことかな?


 パーティメンバーへの確認も取れたことだし、条件は整ったということだ。


「よし、飼えることになったぞ。名前は、そうだな……地属性の竜ってことだし、アースでどうだ? お前の名前はアースだ」


 そしてその瞬間、久しぶりに例の機械音声が聞こえてきた。

《スキル『竜のシナジーLv.1』が有効化されました》

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