第70話:力尽くでねじ伏せるのは趣味じゃないんだが
どう説明すればいいんだ……?
明後日の方向に勘違いされすぎて言葉が出てこない。
そんな俺を見た老人は——
「やはり……」
「いや違うから!」
「またまたそんなことを言いよって……ワシの目を騙すことはできんのじゃからな」
はぁ……。
疑い深いのは良いとして、間違った方向に疑われるのも困りものだ。
「ユーキは竜なんかじゃありませんよ!」
「そうよ、ユーキに失礼だわ。竜なんて比べ物にならないもの」
「そうだそうだー! ご主人様は比較にならない!」
「……む、そうじゃったか? 失礼したのう」
爺さんの勘違いからの妙な方向の援護射撃。
そういう弁明をして欲しいわけじゃなかったんだが……まあ、結果的に誤解は解けたようだし良しとするか。
こんなことでツッコミを入れていると話が進まないからな。
「と、まあそういうことだ。『黄眼の翼竜』は雨を降らせていないし、正体は俺でもない。……ということで、今から森の方に向かうよ。って、あんたに言っても仕方ないか。止めても行くことになるが、先に村の一番偉い人に伝えたい」
「うむ、それに関しては心配及ばん」
「あんたが代わりに話してくれるのか?」
「いや、ワシが長老じゃ」
「え? はぁ……」
……そうならそうと早く言ってくれよ!
色々と手間が省けて結果的には良かったのだが。
「じゃあ、まあそういうことだ。説得してくるよ」
「うむ、お主ならできる気がしてきたぞ」
言って、長老は村人に知らせるべく俺たちのもとを去った。
ちなみに、領主には報告せず進めるつもりだ。
村の住民には先に伝えておくべき案件ではあるが、この王国の領主は貴族。貴族の中にも格というものがあるわけだが、俺の地位からしていちいち事前に報告する必要はない。
事後報告だけで十分だ。
あと、今回の場合は色々と問い詰めたいこともある。
領主には領民の生存を保障する義務があるわけだが、日照りが続いてからやけに要請が遅かった。
まさか『竜を怒らせて日照りが続いたことを報告するのが怖かった』みたいな子供じみた理由でないことを祈るばかりだ。
「アレリア、アイナ。……それと、一応スイ、早速森に向かうぞ——って、んん?」
今ちょうど一歩踏み出そうとした瞬間。
雨雲が急に何かの力で散らされ、隙間から太陽の強い光が差し込んできた。
綺麗な虹がかかって綺麗……なんて言ってる場合じゃないな。
「雨が止みました!」
「晴れていた方が見通しは良いけど……」
「念のため言うが、俺は何もしてないぞ。しかし妙だな。……気候操作は解除していないんだが」
もう一度、気候操作で雨雲を領地全体にわたって囲んでみる。
「……っ!」
雨雲が村の中心に近づくたびに反発するような力を感じた。
考えられることすれば——
「その竜……よほど雨を降らせたくないらしいな」
「ユーキでも難しいんですか……?」
心配そうにアレリアが覗き込んでくる。
「いや、力比べで強引に押し通すくらいは余裕だ。俺はさっきの本とスイのおかげで水属性の魔法は普通よりも使える。ただ、芸がないなと思ってな」
大量のMPを消費し、魔力へ変換。
右手を上げ、反発する力に反発する——
ザーという感じで雨が降ってきた。
抵抗されるといい感じに調整するというのがなかなか難しい。
「ご主人様ー」
「どうした?」
「ボクもそれできるよー。雑用は任せて!」
「大丈夫か? かなり魔力使うぞ」
「ご主人様の配下になったから、昔より強化されてる。大丈夫なはず!」
「スイがやってくれるならかなり助かるぞ。任せていいか?」
「もちろんー!」
返事の後、魔力操作を解除した。
雨雲がすごい勢いで去っていこうとするが、動画の逆再生みたいに戻った。
「調整が上手いな。……もしかして、曇り空で維持することとかもできるか?」
「これでも齢……何歳だっけ。調整は自信あるよー(えっへん)。これでいい?」
「いい感じだ。これなら万が一戦うことになってもやりやすい。ずぶ濡れになるのはできれば避けたいからな」
準備も整ったところで、改めて向かうとしよう。
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