第65話:王都に帰ってきたんだが

「近くに魔物はいないか……」


 せっかく聖剣とやらを手に入れたので試し斬りしたかったのだが、思い切り斬れる対象がない。

 その辺の柱を攻撃してみることも考えたのだが、万が一倒れたら大変なことになるので今回はノータッチだ。


「一通り情報は集められた。そろそろ帰ろうと思うんだが、他に見たいところとかあるか?」


 アレリアとアイナ。一応スイにも目を配る。

 なさそうなので、ひとまず帰ることにする。


 王都に戻ったらまずはギルドに状況を報告する。この遺跡についても話しておくつもりだ。

 それから王城に戻って選りすぐりの役人たちに本の解析を任せる。


「眩しいです……!」


 遺跡から出てきた俺たちを出迎えたのは、カンカンに照る太陽だった。

 太陽の位置から計算して——


「案外時間がかからないもんだな」


 全ての部屋の探索を終えて出てきたわけだが、モンスターハウスもサクサクと攻略できたので、思ったより時間は経っていなかった。


「ユーキ、なんか囲まれてる気がするんだけど……気のせいかしら」


 ようやく明るい光に目が慣れてきて、周りが見えてくる。

 数にして三十体ほどか。


「あー……本当だな」


 多分、この遺跡の魔力が魔物を集めているのだ。今までは地下に埋まっていたから地上の魔物に察知されなかったが、地上と繋がったことで魔物にもバレてしまった。


 遺跡の魔力で通常よりもちょっとステータスが上がっていたりもする。


「まあちょうどコイツを試してみたかったところだ。ちょっと二人には悪いんだが、ここは俺に任せてもらってもいいか?」


「ユーキが積極的に動くなんて珍しいですね!」


「私も構わないわ。っていうか、できることなら戦わないに越したことはないし……」


「サンキュ。じゃあ、ちょっと斬撃を飛ばすから離れていてくれ」


 二人が後ろに下がったことを確認して、俺は聖剣エクスカリバーを右手で一閃。

 魔剣ベルセルクは黒い斬撃が飛んだが、これは白い斬撃らしい。


 ズドドドオオオオン!


 斬撃が勢いよく飛んでいき、大地を削りながら魔物を刈り取っていく——


 一撃で全ての魔物を駆除することができた。


「す、すごい……!」


「いつも通りすごいわ!」


「ちょっと癖があって扱いが難しいが、まあ威力は十分だな」


 魔剣ベルセルクと同等の性能といったところだろう。

 聖剣なら魔剣よりも強いかと思ったのだが、ジャンルが違うだけで基本性能は同じだ。


 魔剣も実は最初の頃は少し苦労していた。

 これも使っていけばそのうち慣れるだろう。


「しかしこの感じだと王都から調査団を派遣するのはかなり先になりそうだな。……魔物が厄介すぎる」


 ギルドに報告した後、さらに詳しく調べさせようと計画していたのだが、非戦闘員を連れてくるのはさすがに危ない。


 地中に埋めてしまえば魔物は寄ってこないが、それでは調査団が入れない。


 冒険者を雇って警備させるか、俺たちが守ってやるかだが——どちらにせよ時間はかかりそうだ。


 ◇


 王都に戻ってからは予定通りギルドに現状を報告し、偶然遺跡を見つけたことも伝えた。

 途中で見つけた本に関しては俺が直接鑑定し、分かったことがあれば報告するということで話をまとめた。


 王城に戻った足で役人に本の内容を解析せよと命令を出し、今は執務室。


「ユーキが実質的に王国の内政をしていたなんて……。意外とまでは思わないけど驚いたわ」


 俺が大公爵となり王政を直接操れるようになってからは、隠す必要がなくなったので、今日はアイナも連れてきている。


 まあ、大公爵にならなくてもアイナには話しておいても良かったのだが、タイミングを逃した感じだ。

 当時はトップシークレットだったので、気軽に外で話すわけにもいかなかった。


「色々あってな。端的に言えばレグルスが新国王になる条件として、俺が王政を支えることになった感じだ」


「なるほど、まったくわからないわ……」


「ハハ……まあこの件はまたそのうち話すよ。で、今日改めて状況を説明したのはちょっと出張をすることになったからなんだ。二〜三日王都を離れることになると思う」


「出張ですか?」


 一緒に聞いていたアレリアが聞き返してきた。


「ちょっと離れた地域にはなるんだが、日照りで疲弊しているらしくてな。ちょっと雨を降らしに行こうかと思ったんだ」


「え、雨ですか……!?」


「絶対ナチュラルに言うことじゃないわよね……」


 『気候操作』で雨ぐらい簡単に降らせられると思ったのだが、そんなに珍しいことだったのか……?

 確かに広範囲にわたって天気を変えたことはないが、基本は同じだ。


 使う魔力量が増えるくらいで。


「まあそんなことだから、二人には留守番をしてもらうか——」


「ついていきます!」


「ついていくわ!」


「……まあ、そう言うかと思って二人もついてくるってことで話を進めてある。王都から救援物資を持っていく用意ができるの待ちだな。二日後に出発する。そのつもりでいてくれ」

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