第55話:事情を聞いてみたんだが
◇
爵位授与式はつつがなく終わった。
特筆する事はない。形式的なものだから、国王から爵位をもらって、コネを持ちたい周りの領主たちにベタ褒めされるだけだ。
コミュ力が高い方ではないので、たくさんの人に会って疲れた。
今日はもう一つだけ仕事をこなして終わるとしよう。
俺はこの数日間、爵位関連のことや内政に関することで忙しくしていたので、後回しにしていたことがあった。
アイテムスロットで埃を被っている魔族の四天王ケルカスの事情聴取。
ケルカスの件は死亡したこととして、俺とレグルスとの間だけで極秘にしている。
アレリアとアイナには秘密にしているわけではないが、言い出すタイミングがなかったので言っていない。
一人だけの執務室で、俺はケルカスを取り出した。
あの時の状態のまま保管していたので、まだ気を失っている。
今のうちに椅子に縛り付けて、念のため手錠を五重にかけておく。
しばらく執務を消化していると、ケルカスを目を覚ました。
「ここは……どこだ?」
「目を覚ましたようだな」
「き、貴様は勇者……!」
まだ俺のことを勇者だと思っているのか……。
俺が呆れていると、ケルカスはジタバタと動いて椅子から逃れようとする。
しかし身体に上手く力が入らないようだ。
「魔道具で縛っているから抵抗しても無駄だぞ」
「くっ……そのようだな。四天王であるこの俺がこのザマとは屈辱だ」
「それと、俺は勇者じゃないと何度言ったらわかるんだ?」
「勇者じゃなければ俺を殺すことは愚か、捕まえることなどできるはずがない! が——妙だな」
ついにケルカスも気づいたか。遅かったみたいだが。
「その通りだ。俺は勇者武器を持っていない。あいつらは皆揃って趣味の悪い派手な武器を持っていたが、俺はこの通り魔剣しか持っていない」
コツンと魔剣を地面に当てた。
「では、俺は勇者ですらないただのガキに負けたということか……! 人類はいつの間にかこれほどまでに強くなっていたのか!?」
「ま、そういうことだな。俺はちょっと周りより強いみたいだが、俺の仲間も魔族と良い勝負してたみたいだしな。魔族に手も足も出ないって感じじゃないぞ」
「時期が遅すぎたか……。それで、俺をどうする。なぜ殺さなかった?」
「お前は色々知ってそうだし、聞いてから殺しても遅くはないだろ? あと、普通に殺すのはもったいないから魔族の身体で実験してみるとか、死んだら解剖して仕組みを解明するとかやれることはいっぱいあるぞ」
ケルカスは絶句した。
「貴様……魔族である俺よりも恐ろしいな。頭おかしいんじゃないか……?」
「ま、それも俺の気分次第だ。べつにお前で実験する必要も殺す必要もないから、別の魔族をどこかで捕まえてきてもいいんだが——それもお前の答え方次第だな」
俺は口角を上げて、ケルカスを見下ろす。
「この俺を脅すつもりか!」
「いやいや、提案だぞ。ちゃんと俺の望む情報を吐けば殺さないし人体実験もしない。命の保障はしてやろう。どうするべきかわかるな?」
「……聞きたいこととはなんだ?」
なかなか物分かりの良い魔族で良かった。
決断力があるし、ファブリスよりは頭が良さそうだ。
力関係をよく理解している。
「そうだな——まずは、エルフの里を襲った理由を聞かせてもらおうか。邪竜の復活なんて表向きの理由はいらないぞ。邪竜を復活させて、何をやるつもりだった?」
「我々の真の目的は、王都を征服することだ。そして、エルフの里の何倍もの住民を贄に捧げ、さらに強力な古竜を召喚する計画だった。邪竜さえいれば容易いと考えた。——だが、甘かったのだ」
「妙に慎重なんだな。直接王都を襲わなかったのはなぜだ?」
「勇者どもを屠れる戦力が必要だった。俺以外では勇者の相手はできん。それも、七人を相手取るのは無傷では済まんだろうからな」
どうも、ケルカスも勇者を過大評価しているみたいだな。
実態はリーダーのファブリスがアレリアに完敗してるんだが。
「そうかそうか、それは残念だったな。では、次の質問だ。魔族は魔王直属だとかなんとか聞いたが、魔王はどこにいる?」
戦いにおいて、頭から叩くのが基本だ。
四天王を一人一人倒して魔王に近づくのがセオリーなんだろうけど、あまりにここに時間をかけるのは面倒臭い。サクッと魔王を倒して解決してしまいたいのだが。
「ふっ、そんなに魔王様の居場所が気になるか」
「勿体ぶらずにさっさと吐いたらどうだ? 骨で済めばいいが、下手すりゃ腕がなくなるかもしれないぞ?」
俺は、ケルカスの腕を素手で掴んだ。
このまま捻ればバキっといける。勢い余ってもげるかもしれない。
ポーションで回復させれば死にはしないだろう。
「嘘をつくつもりはない。俺だって命は大事だからな。だが——俺も魔王様の居場所は知らない。いや、俺だけじゃない。それどころか、魔族は大いなる存在の顔を見たことがないのだ」
「……は?」
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