第53話:貴族になんてなりたくないんだが

 エルフの里で少しだけ調査をした後、王都に帰還した。

 帰りは王城までスイがひとっ飛びしてくれたので、日が暮れるまでに戻ることができた。


 空の移動は良い。

 地上を移動するとなると崖やら川やら谷やらと障害物が多いが、それらを一切無視して最短距離で動ける。

 レグルスと情報共有するため、俺は書斎を訪れていた。


 コンコンコン、


「レグルス。俺だが、入ってもいいか?」


 ガタガタガタっと物音がして——


 ガチャ。


「おおっ、ユーキ殿!。扉の前で待たせて悪かったな。ようこそ来てくれた!」


「ん……? ああ」


 10秒も待っていないし、レグルスは国王なんだからもう少しドッシリと構えてほしいんだが。


「俺の方からも話しておきたいことがあったんだ。まあこれは後でいい。それよりどうかしたのか?」


「事後報告にはなるが——」


 俺は、盗賊の件、エルフの里の件、魔族の件、魔族が召喚した邪竜の件などを順を追って説明した。

 盗賊の件だけでもそれなりに大きな事案なのだが、後半の魔族関連の話と比べると重要性は下がる。


 全てが解決した後とはいえ、レグルスは悩ましげな顔をしていた。


「なるほどな。……うーむ」


「俺から伝えておきたかった事は以上だ。そういえばさっきレグルスも話しておきたいことがあったって言ってたよな?」


「ああ、そうなんだが……ユーキ殿の話を聞いた後だと考え直さないといけないかもしれん」


「魔族関連の話か? 一人で抱え込まず相談してくれ。俺も一緒に考えよう」


 現地人と言うだけあって、レグルスの方が魔族に関する知識は豊富にある。

 とはいえ、俺も実際に魔族を相手に戦った経験がある。

 知識だけでも、経験だけでも不十分。二つを組み合わせることで、良い作戦を立てられるかもしれない。


「そうか。なら言おうと思うが——さすがはユーキ殿だ。魔族関連のことで考えていることがあってな」


「やっぱりそうか。続けてくれ」


「王国の体制が変わったことで色々と大事なことを先送りにしてきた。ユーキ殿に対する褒美をどうしようかと悩んでいるのだ」


「……え?」


 レグルスの口から飛び出したのは、思っていたよりもどうでもいいことだった。っていうか、そういうことなら確かに俺に相談することではないよな。

 自分から聞いておいてこんな感想を抱くのもどうかと思うのだが。


「壊滅の危機に瀕した王都を救い、腐敗した前体制を崩した立役者なわけだ。俺としては公爵の爵位を与えるべきだと思っていたんだが——」


「いやいや俺は貴族に興味なんてないぞ!?」


 っていうか、公爵ってたしか貴族の中で一番偉いんだろ?

 国の中で王族の次に偉いのが公爵だったはずだ。


「悪徳領主の地位を剥奪すれば、広めの領地2〜3個くらいは用意できる手筈だっただが、困った」


 公爵なんてもらったら俺の方が困ってしまうぞ。

 貴族として領地を持つと、その土地に縛られることになる。

 もっと歳を食って落ち着けばスローライフもいいのかもしれないが、俺はまだ若い。


 精神年齢はまだ二十代だし、身体年齢はまだ十代。

 っていうかさっきアイナに『一緒に冒険についてきてくれ』って言ったばかりだ。


「エルフの里の危機を救い、しかも15体の魔族の討伐に成功したって話だからな。……こりゃ領地の30や50では足りないのだ……」


 いらねええええええ!!!!

 領地一つでも荷物になるのにそんなにいらねえ!

 っていうか一つもいらねえ!


「なにか良い案はないか……?」


「色々言いたい事はあるが、俺は貴族になんてなりたくないぞ。そりゃ王政としては褒美を与えないと示しがつかないってのはあるんだろうが……」


 かと言って金貨をたくさんもらっても多分使いきれない。

 寄付してしまってもいいのだが、それなら最初から国庫から使ってくれた方がスムーズだ。


「俺も元冒険者だ。ユーキ殿の気持ちもわかるが、これだけの功績がありながら爵位がないというのは逆に問題なんだ。分かってくれ」


「功績を称えるための爵位自体はいいんだが、そこに領地がついてくるのが厄介なんだよな。どうにかならないのか?」


「領地経営は別の者に任せてもいいと思うが……ユーキ殿は律儀だからな。ならば、特例として全ての領地に指図ができる爵位を新設しよう。……大公爵というのはどうだ?」


 なんかさらに偉くなったような気がするが……。


「そこまで権力があるとそれ国王と変わらなくないか……?」


「うむ、今まで通りだろ?」


「確かに、実質は変わらないな」


 今までは普通の平民として暗躍していたが、貴族の地位を持って表向きもレグルスの右腕として王国を動かしていく。この方が色々とやり易くはなるか。


 あまり目立ちたくはないのだが、レグルスの顔を立てるためにも大公爵をもらっておくとしよう。

 領地なき貴族なら、実質平民と変わらない。


「分かった。それで頼む」


 レグルスはほっとしたように息を吐いた。


「おお、引き受けてくれるか。やはり相談してみるものだな。助かったぞ」


「うん? どういたしまして」


 ……って返事でいいんだろうか。

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