第52話:エルフの王女の求婚は受けられないんだが

 ◇


 ケルカスとワイバーンを処理した俺は、アレリアとアイナのもとへ向かうことにした。

 場所は聞いていなかったが、あれだけの人数を収容できる場所となると、あそこしかない。


 王様でも住んでそうな豪奢な建物。

 エルフの里は、エルフしか定住していないということもあって、王国の領土内であっても実態は公国のような感じだったりする。


 一国の中に違う人種が住んでいると治めるのはなかなか難しい。


 そういえば、エルフの里を治めているのは王様じゃなくて女王様だったか。

 名前は——そういえば確認していなかったな。さすがに失礼なので、後でアイナに確認しておこう。


「あっ、ユーキ! 無事で良かった! 今鍵を開けるわ!」


「待っててくれたのか。助かる。どうやって入ろうかと迷ってたところだったんだ」


 扉の前でアイナが待っていてくれたようだ。

 無理やり扉を壊すかどうか悩んでいたところだったので普通に開けてくれるのはありがたい。


 中へと入ると、さっきとは見違えて元気になったエルフたちの姿があった。

 老若男女関わらずポーションは効いたみたいだ。


「死者は……いないみたいだな。間に合ったみたいで本当に良かった」


「うん、本当に。全部ユーキのおかげよ!」


 今はそれなりにお金もあるから、今度は素材だけ買ってポーションを作ってもいいかもしれない。

 作り方を体系化できれば他人に任せることも考えるのだが……現状はちょっと難しそうだな。


「殿下、その方はもしや——」


「この人がユーキよ。魔族を討ち、エルフの里を救った英雄」


「おおっ!」


 英雄といえば英雄になるのか……?

 まあ結果的にはそうなったみたいだけど。

 いやいやそんなことより……。


「殿下って誰のことだ……?」


 王族や皇族の呼び名だった気がするが


「私、実は……っていうか第一王女みたいな感じなのよ」


「マジ……?」


 最初見たときからどこか品とか責任感があるなと思ってはいたが、まさかそうだったとは。

 王女様が一時的とはいえ奴隷になって捨てられるってなんかすごいな。


「でも肩書きだけよ。すぐに盗賊に連れていかれちゃったし、その間は妹のシャルが私に替わって仕事してくれてたみたい」


「そうだとしても一応はそういう身分ってことだろ……? あっ、名前なんて呼べばよろしいでしょーか?」


「……急にやめてよね。気持ち悪いわ。普通に、今まで通りでいいわ」


 知らなかったとはいえ、何か俺失礼なことしてないだろうか?

 同じベッドの上で帝国の皇女も混じって三人で寝てみたり、スイの上に乗ってる時にしがみつかれて色々当たってたり……うわぁ、不敬罪になりそうなことが多すぎる!


 いや待て、全部俺から進んでやったことではないぞ?

 どれもこれもアイナからやったことだ。つまり事故みたいなもんだ。

 この言い訳がどこまで偉い人に通じるのかわからないが……。


「殿下、ユーキ殿にはどのようにいたしましょう」


「ひっ」


 思わず、声が出てしまう。


「そうね。お金と名声はもう十分持っているだろうし——」


 ああ、なんだご褒美の話か。


「あとは権力かしら。ユーキ、私と結婚する気はない?」


「け、けっこ……は?」


「ユーキにあげて喜びそうなものなんてあまり思いつかないの。富も名声も持っているでしょ? なら女と権力。……そのうち女は私がムカつくからナシとして、私と結婚すれば小さいとはいえ国のトップになれるわ」


「あー、そういうことか。権力か……」


 実質的には既に王国を自由に動かせる身なのだ。今さらそんなものに興味はないし、これ以上仕事が増えるのも勘弁してほしい。

 そもそも俺には権力欲なんてない。他にできるやつがいないから仕方なく俺がやっているに過ぎないのだ。


「その顔はあまり乗り気じゃなさそうね。……どうしようかしら」


「別に褒美なんていいんだぞ。アイナが悲しまずに済んだってだけで十分だ」


「そんなこと言われたらなおさら何かあげたくなっちゃうじゃない?」


 そういうものなのか……?

 本当に何もいらないんだが……。


「じゃあ、ダメ元で言うぞ。無理なら無理って言ってくれて全然良いから、気楽に聞いてくれ」


「わかったわ。なんでも言って」


「アイナは、俺が見てきた数千人の冒険者の中でもトップクラスの才能がある。打てば響くし、このまま続ければ王国どころか、人類の頂点に立つかもしれない。同じくらい才能がある人物を、俺はアレリアしか知らない」


 俺は、チラッとアレリアを見た。こちらを気にしているようで、ちょっと目が合ってしまう。


「——一緒に冒険する仲間は、強ければ強いほど良い。それに、強いだけじゃなく信頼できる人であってほしい。俺は、アイナにもついてきてほしいんだ。……すまん、言いながら無理なことを言ってると思う。断ってくれていいんだ」


 俺がスッキリしたかっただけだった。

 だったのだが——。


「なによ……そんなことね。はぁ」


 アイナは、ため息をついた。

 さすがに呆れられただろうか。


「最初からそのつもりよ? 今さら国に戻ってもできることなんてないし……。シャルの方がずっと優秀だわ。ユーキが断った時点で、一生ついていくつもり。だって国をあげるって言って断られたら他になにもあげられないもの」


「本気……なんだよな? ここにいれば死ぬまでずっと優雅な生活ができる。それを捨ててまで、俺についてきてくれるのか……?」


「そうよ。それに、ユーキが思っているほど庶民の生活も悪くないわ。贅沢はできないけれど、代わりに自由があるもの」


 確かに、それはわからなくもない。

 俺もそれが理由で新生王国をレグルスに任せたんだからな。

 もちろんレグルスが俺の知る中で信用のおける人物だったという点が大きいのだが。


「話は終わりましたか? 私も、ユーキについていきますよ?」


 そこそこの声量で会話していたからか、アレリアも聞いていたらしい。


「しかしいい加減どうなんだろうな。……帝国の皇女様が行方不明になって結構経つだろ?」


 こっちはこっちで別の問題があるのだ。


「もうちょっとだけなら大丈夫な気がします!」


「そのもうちょっとの感覚がわからん」


 とっくにアウトな気がする。


「アレリアが帝国の皇女……?」


 アイナが聞き捨てならないといった感じで、アレリアの顔をじっと見た。


「そうですよ? 第三皇女なので庶民みたいなものですけど」


 下級貴族とかならともかく皇族の直系が庶民はないと思うが……。


「ふうん。……そうなの」


 あれ? なんか二人とも笑顔だけど目が笑ってない気がする。


「(アレリア……相手にとって不足ナシね)」


「(アイナ……この女もなかなかやりますね)」


 なんて言ったのか聞こえなかったのだが、二人ともボソボソと何か言っている。

 なんで急に仲が悪くなったんだこの二人は?

 一緒に冒険する仲間なんだから仲良くしてほしいんだが……。

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