第30話:これを因果応報と言うんだが
翌日。
王都の処刑場にて、公開処刑が行われる運びとなった。
処刑台に青い顔で鎮座しているのは、元国王——セルベール・オズワルド。
その側には、処刑されるわけではないが、他の罪人たちの姿もあった。
七人の勇者が勢揃いという状態だ。
その様子を、国王の椅子に座るレグルスが見張っている。
たったの一日で一国の王が処刑台に乗せられ、国中から厚い信頼を寄せられていた勇者一行が罪人として民衆の前に顔を出す羽目になった事情——それは昨日に遡る。
◇
『とても良いこと』を思いついていた俺は、祝杯を上げているレグルスに声をかけた。
今日は魔物を撃退し、魔族が無事に倒されたということで王都中がお祭り騒ぎになっている。
「レグルス、ちょっと話があるんだが」
「俺にか? ……その様子だとかなり大事な話みたいだな。場所を変えるか」
意識していなかったのだが、大事な話であることは伝わっていたらしい。
「そうしてくれると助かる。場所は——そうだな、ちょっと王城に来てくれるか?」
「王城だと……?」
「ああ、王城だ」
詳しい理由は話さず、レグルスを王城の地下に連れて行った。
「……なんだ、これは……! 国王に、勇者か!?」
王城地下にある牢獄。
地下に牢獄があることは、書斎の目立つところに資料が置いてあったのですぐに分かった。
万が一にでも見つかると困るような人間を隠しておくために作られた牢獄らしい。
アレリアは、ここに投獄される予定になっていた——
「レグルスは、セルベールがとんでもない国王だったって言ってたよな。その後、色々と俺も調べたんだよ。それで、余罪のリストがこれだ。余罪のうち、勇者絡みの事件もある」
俺は、アイテムボックスから紙束を取り出してレグルスに見せる。
「表に出てるものだけでもとんでもないが、これはヤバイな」
条約で固く禁じられている人体実験、亜人の迫害、禁呪の使用……数えればキリがない。
これは国家間での禁止事項だが、余罪リストにはモラル的に完全にアウトなおぞましい案件も取り上げている。
長期に渡る複数の懲罰的重税や、性的虐待などがあった。
「ユーキ殿。こいつを……放っておくわけにはいかん。俺の中の正義……いや、人としての常識という概念が崩れそうだ。これは許されない」
「俺も同感だ。だから、こうして牢に入れた」
「そうか、しかし王を裁くにはどうしたものか……」
「そのためにレグルスに声をかけたんだ」
「俺に? 何ができる? 俺にできることがあるならなんでも言ってくれ」
やはり、レグルスは信頼に足る人物だ。
根が純粋だから、悪を許さない。
「レグルス、お前が王になって、この国を統治するんだ」
「な……何言ってるんだ? 俺は、ただの冒険者だぞ……?」
「そんなことは分かっている。だが、お前は王都で一番国民からの信頼が厚いんじゃないか? 上位冒険者ともなれば王都以外でも顔が利くだろう。それに、自主的に王の悪事を暴いた意欲を俺は買いたい」
「いやいや、さすがにそれはない。確かに信頼はされている自負はあるが、俺には頭が足りない。頭が良い者——そうだ、ユーキ殿が国王になればいい」
「王に頭はいらない。現に、セルベールだってこの悪い頭で国を動かしてたんだからな。参謀を付ければいい。それと、俺は国民からの信頼は無いに等しい。急に国王に就任すると言っても暴動が起こるぞ」
「参謀……しかし、俺にはそんな頭の良いツテは……そうか、ユーキ殿」
俺は、にやりと笑う。
「どうした?」
「良い参謀が見つかった。俺は表の王として、全力で国のために尽くそう」
「レグルスならきっと今よりも豊かにできるはずだ。俺も全力で応援する」
◇
「俺が新国王——レグルス・デアラントである。今日は俺の初仕事として、セルベール・オズワルドの処刑及び、勇者七名の処分を執り行う」
集まった国民は、事情を知らない。
完全に困惑しているようだった。
レグルスの信頼があるおかげで、なんとか静かに話を続けられる状態だ。
「セルベール・オズワルドの余罪は数千にわたり、その悪逆の数々は許しを与えられるものでは無い。禁忌を犯し、国民を不当に搾取し、その他にもおぞましいことの数々をした。そして、勇者はその一端に手を貸した」
国民の間にざわめきが起こる。
商人の一人が大声を上げた。
「そうだ! 俺は納税していたのに『儲けすぎたから』ってだけの理由で罪を着せられ、財産を取られた! この愚王だけは絶対に許さん!」
今度は、一人の女性が声を上げる。
「娘が王城に連れて行かれて、帰ってきたときには身も心もボロボロの廃人になっていました! 国王は何をしていたのですか!」
続々と不満を漏らす国民は後を絶たない。
「静粛に。なお、一件の事件が明るみに出たのは、異世界の救世主である賢者——マツサキ・ユーキ殿の功績である! 彼は国王により不当に虐げられ、誤った情報を流布されたが、誠実で誰よりも強く、謙虚な冒険者だ!」
おおっ! と歓声が起こる。
事前に参謀として、俺はレグルスに台本を渡しておいたのだが、このセリフはなかったはずだ。
レグルスが改変したのだろう。
今まで虐げられていたのに、この反応になるとは——
しかし注目を浴びるのはちょっと恥ずかしいな。
やっぱり国王にならなくて良かった。
「では、セルベール。最後に何か言い残したいことはあるか?」
衛兵が、セルベールの首をいつでも跳ねられるように準備を始める。
セルベールは、脂汗を流して気分が悪そうだった。
「わ、ワシは何もやっていない! 全てでっち上げだ! 全ては国民のためにやっておったのだ! し、死にたく無い! 死にたく無い! 死にたく無い! 死にたく無い!」
魂の叫び。
だが、誰一人とて国民が同情することはなかった。
「では、処刑を執行する——」
セルベールは慈悲がかけられることも、奇跡が起きることもなく、ただ淡々と首を跳ね飛ばされた。
一分が経ち、死亡が確認された。
遺体は火葬され、墓に埋められることにはなっているが、当然それは質素なものだ。
歴代の国王のように、豪華絢爛な墓が用意されることはない。
「では、続いて勇者七名の処分を発表する。勇者は、国民から信頼されなければならない立場でありながら、愚王に手を貸し、悪事の助けを行った。この罪は重い。そして、新たに生まれ変わる王国は、周辺諸国に反省を示さなければならない」
この処分内容は、俺が考えたものだ。
セリフを含め、レグルスは基本的には俺の意向で動く。
もちろんこれからの細かなことはレグルスに任せるつもりだが、これからも俺はある程度助言をしていくつもりだ。
改革しなければならないことは山ほどある。
「勇者七名は、それぞれ散り散りにした上で、国外追放とする!」
魔王を相手にするために召喚されたのが勇者だった。
だが、勇者を一挙に集めておくとロクなことにならない。
幸い、兵器として勇者を欲しがる国はある。
どうせなら、力が弱い小国にプレゼントしてやるとしよう。
新生王国の株は上がり、さらに周辺諸国は戦力拮抗により争いを抑えられる。
しかし、勇者を一国に集めずして魔王討伐が可能か? と疑問に思う者もいるだろう。
結論として問題はない。
魔王を相手にするのは勇者じゃなくてもいい。
アレリアのような人材を新たに見つけ、育てればいいだけだ。
こうして、元国王と七人の勇者の処分は終了した。
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