第25話:勇者がしつこすぎるんだが
◇
それからも、アレリアはぐんぐんと力を伸ばしていき、勇者をも凌ぐ実力者になった。
もう、変な輩に捕まって売り飛ばされるということもないだろう。
お金もかなり貯まっていき、いつの間にか金貨500枚になっていた。
優秀な冒険者は稼ぎも多い。
難易度が上がれば上がるほど需要と供給の関係で依頼単価が上がるからだ。
俺たち二人は、資金を共有することにしている。
だから、俺の持ち分としては金貨250枚。
わかりやすく言えば250万円ほど。
大金のようにも思えるが、冒険者に怪我は付き物。
一年動けなくなれば底を尽きてしまう程度の頼りない金額だというのが実態だったりする。
余談になるが、アレリアはメキメキと頭角をあらわすようになってから、ちょっとした有名人になってしまった。
美少女剣士と噂され、なぜか美少女の部分ばかりが強調されている。
俺の評判が良くないからか、「騙されている」だの「可哀想」だの散々なことも聞いた。
なお、ファブリスには俺の悪評を払拭するよう命じたのだが、約束は反故にされたようだ。
本物のクズだな。
「それにしても、この依頼一度で報酬が金貨100枚ってとんでもないですよね」
「本来は討伐隊を組んで倒すような敵だからな。100人が参加すれば、1人当たりの分け前は金貨1枚になる。相場だろうな」
今日は、Cランクで受けられる依頼としては最高難易度のものを受注していた。
王都周辺に突如エリアボスが出現したらしい。
昼には討伐隊が組まれるらしいが、小規模でも受注することはできる。
依頼が重複した場合の扱いは、先に倒したものが達成してことになる。
それなら先に倒してしまおうと考えたのだ。
Cランク冒険者100人で倒せる程度だということは、俺とアレリアで100人を相手に倒せるのであれば実力は十分足りているということになる。
もしダメでも逃げることくらいはできるだろう。
討伐隊に参加して俺とアレリアの二人で金貨2枚では、安くはないがコスパが悪いのだ。
「そろそろ、着きますね。って、アレですよね!?」
「多分な。カルロン平原であんな目立つやつ初めて見たな……」
ターゲットの魔物は、カルロン平原の中央でうろうろしていた。
巨大な赤鬼の見た目をしている。
全長3メートルはありそうだ。
「ギルドで聞いた通り、まるで巨人ですね……!」
「大きさはさほど重要じゃない。大事なのはパワーと、俊敏さだ。見たところ、アレはどっちも低い。時間をかけて生命力を削りさえすれば、無理なく倒せる。Cランク相当ってのは妥当だな」
『魔眼』で確認した限りでは、そんな感じだった。
このスキルがどこから由来しているのか不明な限りはあまり過信するのも良くないが、目で見た感じでも動きは鈍かったのでそんなものだろう。
ノロい代わりに、HPはかなり高いので、高火力の攻撃を加えるか、時間をかけてコツコツ削るかの二択だ。
「さて、アレリアに任せてみようか。もうあのくらいなら一分くらいで片付くんじゃないか?」
「一分ですね。分かりました!」
こんな会話ができるくらいには、アレリアには余裕が出てきた。
経験を積むことで、一目見るだけで相手がどのくらいの強さなのか、分かるようになってきたのだ。
自己評価が実力に追いついたことで、その精度はかなり高い。
「じゃあ、行きますね!」
アレリアの身体が淡い黄金色に輝く。
——これは、アレリアが覚えたスキル『身体強化』だ。
俺が使える『神の加護』の互換スキルのようなもので、自身の身体能力を強化できる。
派手さはないが、有用なスキルである。
『神の加護』と違いは、強化力の強さと、他者に付与できるかどうか。
ただし、重ね掛けができるので、どちらかが死にスキルになることはない。
俺も、アレリアが使う様子を何度か見ていると、使えるようになった。
基礎となるステータスが重要であることは言うまでもないが、スキルはかなり重要な要素だということが最近わかってきた。
「——えい!」
アレリアの剣が、赤鬼の右腕を切り落とす。
ウガアアアアアアアアアア!
耳を擘く大音量の叫び。
それに怯むことなく、アレリアは攻撃を続ける。
赤鬼の左腕が切り落とされた。
これで、赤鬼から攻撃を受けることはなくなった。
「——これで、最後!」
最後は、赤鬼の急所である胸を貫いた。
魔物の急所は種類により異なるが、人間と大体一緒だ。
頭か胸を狙えば大ダメージや即死を狙える。
「ユーキ、倒しました! 何秒でしたか!?」
「48秒——余裕でクリアだ。時給にすると美味しい依頼だったな」
「倒したのが48秒で……移動に往復で1時間ちょっとだから……」
「まあ、2時間としても金貨50枚だな」
「50……! 宿代で困っていた時が嘘みたいです……」
「今思えば、あの時が一番辛かったよな。安定してくると貯金もできるし、心の余裕も出てくる。今日は豪華なディナーでも——」
なんて他愛もない話をしていたのに、邪魔が入った。
勇者だ。
「見つけたぞ、マツサキ・ユーキ。それに、アレリア・ヴィラーズ!」
「またお前か……ファブリス。それで、今度は何の用だ?」
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