第24話:勇者より才能があるんだが

 アレリアはさっきよりも自信がついたせいか、軽快に進めるようになった。


「まだ倒せますけど、なんかだんだんと手強くなってきたような……?」


「その感覚は正しいぞ。奥に進めば進むほどゴブリンの平均レベルが高い」


「ええ!? 大丈夫でしょうか」


「大丈夫じゃなくなったら俺も加勢する。一人でできるところまで頑張ってみてくれ。それで限界が見えると思う」


「わかりました!」


 とは言うものの、俺が加勢しなければならない状況は来ないかもしれない。

 アレリアは面白いことに、この短時間で急成長している。


 魔眼で見られるステータスを確認しても、攻撃力などの評価が1段階上がっている。

 本人は気付いていないが、敵が強くなるのに比例して、アレリアも急成長している。


 初期ステータスは王国基準のCランク冒険者。

 だが、今相手にしているゴブリンはCランク冒険者では倒せない。


 なら、なぜCランクの依頼として出されているのか——

 実は、この依頼はパーティ向けの依頼だ。


 二人以上で連携して敵を相手にすることが想定されている。

 その依頼を、アレリアは一人でこなせているのだ。


 どこまで行けるか——もしかすると、一人で最後までいけてしまうかもしれない。


「あっ、ここが最後の部屋ですね!」


「みたいだな。でも注意した方がいい。この部屋のゴブリンはさっきまでとは違う。……ちょっとだけ待ってくれるか?」


「……? わかりました」


 アレリアの成長速度が早いとは言っても、桁違いに強い敵を相手にすれば感覚を掴む前にやられてしまう。俺が助ければいいのだが、どうせなら一人でゴブリンの巣を踏破させたいのだ。


 今のアレリアでどうにかできるのは、この部屋のゴブリンだと1体まで。


「スイ、一体だけおびき寄せることってできるか?」


「できるよー。でも、一体でいいの?」


「一体でいい。っていうかそうじゃないとダメだ」


「わかったー! じゃあ連れてくるね」


 スイが返事をすると、不自然に1体のゴブリンが奥の部屋を出て、俺たちの方へと近づいてきた。


 キキキキキ!


 一番前にいたアレリアをターゲットに選び、棍棒を振り下ろす。

 アレリアは剣でゴブリンの攻撃を受け流し、ステップで距離を取る。


 これで、アレリアはゴブリンのスピード感や技術をある程度盗んだ。


 そして——


「私、倒せました!」


「よし、じゃあ次は2体だ」


 1体の次は2体。2体の次は3体という風に、段階的に数を増やして、慣れさせていく。

 そうすることで、多数を相手にしたときの経験を高速で積むことができるのだ。


 そうして、いつの間にかゴブリンを殲滅し、洞窟はもぬけの殻になっていた。


「よく出来たな、アレリア。今だから言うが、この依頼は本来、 Cランクのパーティ向けだ。それを一人で踏破できたということは——」


「少なくともBランク以上の実力があるってことですか!?」


「そういうことだ。これでもランクアップを辞退するなんて言わないよな?」


「はい! ユーキのおかげで!」


「良かった。じゃあ、そろそろ村に戻ろうか」


 ◇


 村に帰還した時には、もう暗くなっていた。

 もうすぐギルドが閉店する時間だ。


「アレリアさん考え直したんですね!」


「はい。ユーキのおかげで、ちょっと自信がつきました!」


「いったい何をしたらこんな短期間でこうなるんでしょうか……?」


 受付嬢は不思議がっていた。

 何も特別なことはしていないのだが。


「ちょっとゴブリンの巣を一人で殲滅させてみたんだ。一人でできれば自信もつくってもんだ」


「ちょ、ちょっと待ってください! ゴブリンの……何て言いました?」


「ゴブリンの巣……だけど、何か問題か? Cランク向けの依頼だっていうことは知っているが、勝手に行く分には問題ないだろう?」


 依頼を受けられないものの、倒したことで咎められることはないはずだ。


「それ、Cランクじゃなくて、Bランクのパーティ向け依頼です! どうしてそんな勘違いを……」


「ん? そこの掲示板に貼ってあったんだが、Cランクじゃないのか?」


 俺は、ギルド左翼に設置されている掲示板の中から、Cランクの板を指差す。


「いやいや、Cランク向けの依頼にゴブリン退治なんてあるわけが……」


 と言って、受付嬢は掲示板を確認する。


「って、なんでこんなところにBランク向け依頼が!?」


「だから言っただろ?」


「こ、これは担当者の不手際です! ……ああ、この依頼が未だに未消化だったのはこういうことだったのですね……」


 え、そうなのか。

 っていうことは、俺がCランク依頼だと思ってアレリアに一人でやらせたのは、Bランク依頼だった。


 つまり、アレリアはBランク冒険者以上の実力がある——と。


「ユーキさんが異常なのは分かっていましたけど、その陰に隠れてとんでもない人がいたのですね。……騙されてBランクの依頼をこなせるって普通じゃないですからね!? 聞いてます? アレリアさん!」


 口早に言う受付嬢を、アレリアはポカーンと眺めていた。


「私、もしかしてとんでもないことやっちゃいました?」


 うん、そうらしいな。

 多分だが、ポテンシャルで言えば勇者より遥かに上だ。

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