第26話:劣等賢者は試験を受ける②
◇
「解答止め!」
——という試験監督の声で起こされた。
試験場全体から安堵の息が漏れたような気がする。
解答用紙の回収が終わり、退出の指示があると、受験生がぞろぞろと出ていった。
俺も人混みの流れに沿って抜けていく。
他の試験場の受験生とも合流し、ますます歩きにくい……。
我慢しながら歩みを進めていると、柔らかい手に肩をポンと叩かれた。
「アレン、試験どうでしたか?」
「ん、アリスか。……よく場所が分かったな」
「アレンは存在感がすごいのにすぐに分かりますよ! それより、今年の試験は簡単でラッキーでしたね! 私、満点かもしれません」
「え、結構難しくなかったか? 完答できたの一問しかなかったぞ」
「ええ!? ちょっと午後の試験を頑張らないとですね……。例年筆記試験の正答率はかなり高いので、点数が低いとちょっと不利になっちゃいますよ」
なんだと……。やっちゃった感じか。
「ま、まあ終わったものは仕方ない。気を取り直して午後頑張るよ。こう見えても、技能と実技には自信があるからな」
「昨日凄かったですもんね! 多少筆記試験がアレでも挽回できると思います!」
「サンキュー。ちょっと自信が出てきたよ」
高校生の定期試験後のようなノリでアリスとの会話を楽しんでいると、後ろからどこかで聞いたような声が聞こえてきた。
「フハハハハ! さっきの試験は満点で間違いない! 俺は魔法がデキるだけじゃない。ペーパーテストもできるのだ!」
「さすがでございます! さあクズウィン様のお通りだ! そこをどけ!」
誰かと思えば、昨日アリスをナンパしていたやつじゃないか。
子分を三人もつけてなかなか偉そうにしている。
「あれって昨日の……」
「みたいだな。まあ知らんふりしとけばいいだろう」
やれやれと肩を竦めると——
「おい、そこのお前! クズウィン様のお通りだというのがわからんのか! そこを退け」
気がつくと、周りの受験生は素直に従い、道を譲ったみたいだった。
まあ、試験日の貴重な昼休みに面倒臭いやつに絡まれるのは避けるのが普通か。
しかし、俺たちの場合はちょっと事情が違ったりする。
「ん、俺のことか?」
「そうだ、お前のことだ! 次の試験に無事で出たければ素直に従うことだな!」
「らしいぞ。クズウィン……だったか?」
「お、お前に言ってるんだ!」
クズウィン本人は俺の顔を見て昨日のことを思い出したのか真っ青になったが、子分たちは気にもしていない様子。
「お、おい! そいつはいいんだ。放っておけ……」
「クズウィン様もそう仰って——はあ!? お気は確かですか!?」
「俺が良いと言ったら良いんだ! そいつとは絶対に関わるな! いいな!?」
物凄い剣幕で子分を叱りつけるクズウィン。
子分たちは納得しない表情をしていたが——
「も、もちろんでございます! よし、そこのお前。なぜか知らんが退かなくていいぞ」
「それはどうも」
そう言って、俺たちはその場を去った。
「ふふっ、昨日の人面白かったです」
「なかなか滑稽だったな。まあ、予想通りこんな感じだから、アリスは今後も心配しなくていい。手を出しては来ないだろう」
「ありがとうございます。でも、アレンが一緒に合格してくれないとどうなるんでしょうか……?」
「それに関しては心配いらないぞ」
「?」
「腕には自信があるからな。落ちることは多分ないだろう」
ガクッという音が聞こえた気がする。
その後、昼休みは朝買っておいた軽めの軽食を食べて、午後に備えた。
満腹ではベストコンディションを出せない。微妙に空腹感が残っているくらいの方が良いらしいので、その説に倣った感じだ。
◇
午後の試験が始まった。
技能試験の内容は、用意された的を魔法で射るというもの。使う魔法はどれを選んでも良いらしい。
的は最硬質素材であるといわれるオリハルコンを使用した一級品。
一人三回ずつ魔法を発射し、その精度と威力で点数がつけられる。
三回連続で中心に着弾し、その威力が高ければ百点満点。
精度が悪かったり、威力が低ければ少しずつそれに応じて点数は下がっていくという減点方式だ。
受験生は多数のブロックに分かれて、一人の試験官に対して三十人ほどの人数に割り振られた。
残念ながら、またしてもアリスとは分かれてしまったので周りには知らない受験生しかいない。
名前を呼ばれた受験生が定位置に着き、魔法の準備を始める。
「始め!」
受験生がこくんと頷き、魔法を展開し、唐突に叫んだ——
「ファイヤーボール!」
……は?
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