第25話:劣等賢者は試験を受ける①
◇
翌日、高等魔法学院の試験が始まった。
午前は筆記試験。午後は技能試験と実技試験というタイムラインになっている。
多数の受験生がそれぞれの教室に分かれて試験を受ける。
俺に割り当てられた部屋には、大学の大講義室のような試験場に二百人ほどが集まっていた。
問題用紙と解答用紙が配られる。
解答用紙は開始前に見られるようになっているのだが、どうやらマークシートではなく全て記述式みたいだ。全ての試験科目の問題用紙と解答用紙が一斉に配られるので、時間配分は受験生に任せられている。
試験科目としては『魔法』『剣術』『語学』の三つ。
魔法学院だから魔法は当然としても、剣術や語学も大切らしい。
剣士と戦う時や逆に連携する際には剣術の知識があった方がいいし、語学に関しては魔法理論を学ぶ上でしっかりとした読解力が必要になる。
正直なところ、筆記試験対策はほとんどしていない。配点は低いはずだし……技能と実技で盛り返せば大丈夫だろう。多分。
「試験始め!」
試験監督の一声で試験が始まり、教室中にカリカリとペンが走る音が鳴り響く。
こんなのみんな勉強しているのか? さすがにちょっと焦ってしまう。
さて、まずは魔法の問題から確認しておくか。
なになに……。
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問)魔法を発動するには、呪文の詠唱が必要になる。呪文の詠唱が必要な理由を論ぜよ。
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……いやぁ、知らねえ。
っていうか呪文の詠唱なんかいらないし、どう答えればいいんだこれ。
『魔法の発動に呪文の詠唱は必要ない。含有魔力の動きによる働きを正確に把握すれば同じことが実現できるから』……って感じで答えればいいか。
んー、さすがに0点だろうな。
魔法の筆記試験は捨てるか。
次の問題用紙は剣術。
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問)剣士は魔法を使わないが魔力が減少することは広く知られている。その理由として考えられる理由を論ぜよ。
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主題者はアホなのか……?
魔法を使ってるから魔力が減るに決まってるだろうに。
優れた剣士は肉体の限界以上の力を振るう。それは、無詠唱魔法のおかげだ。
問題自体が間違っている。
出題者が想定している理想的な解答が思い浮かばないし、これも0点だろうな。剣術は捨てよう。
さて、最後の問題は語学か。
……ふむ、ここに来てやっとまともな主題内容が出てきた。
長文を読んで、後の問に答えるという形式。
長文の内容は無詠唱魔法に関することだった。
無詠唱魔法の概念やら詠唱魔法との違いなら、どうでもいいことが書き連ねられていたが、目に止まったのは問題の方だ。
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問)イリス・エルネストは無詠唱魔法を提唱する者の一人だが、イリス氏は無詠唱魔法を使う際に頭に浮かべていることがあるという。それは何か。理由も併せて論ぜよ。
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なぜか母イリスの名前が問題文に出ていた。
『無詠唱魔法を使う際に頭に浮かべていること』ね。こんな簡単な問題でいいのか……?
無詠唱魔法の練習というわけではなかったが、俺と母イリスとの間では無詠唱魔法が当たり前だった。特訓の途中で魔法を使う時に何を考えているのか聞いてみたことがあった。
確か——ご飯のメニューを考えているって言ってた気がする。
自分が食べたいものと家族が食べたいもの、栄養とを総合的に考えていると言っていた。
確かにこれは合理的なのだ。文字を書く際にいちいち『平仮名の形がこうで〜』みたいに考えないからな。ご飯のメニューは一例であって、かなり自由にいろいろ考えている——とでも解答しておけばいいだろう。理由は本人に直接聞いたから。
この問題だけはそこそこ自信があるぞ。
満点は余裕だろうな。
さて、全ての問題の解答を終えたわけだが——
なんか……みんなまだカリカリやってるな。
そんなに書くことあったっけ……?
まあ、この辺は人それぞれだしな。
試験が終わるまで寝て待つとしよう。
誤字脱字と誤表現だけ確認して……おやすみ。
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