第21話:劣等賢者は剣を手に入れる
さて、巨大な邪竜をこのままにしておくのも気が引ける。
体内から魔石を回収し、確認する。
驚いたな。特性の種類自体はハズレだったが、なんと特性が七つもついている。
魔石の特性は五つあれば大当たりと言って良いもの。
俺なら書き換えができるし、有効に使えそうだ。
「しかしこれどうする? 竜の素材ともなればかなり貴重だろ。一度村に戻るってギルドに回収依頼を出すのがセオリーだが、お前さんの場合時間がないよな」
「ああ、それなら心配ないよ。こうやって収納しておいて、あとはどこかで売ればいいしね」
しゅおんと巨大な邪竜を異空間に収納して見せた。
「な、な、な、な!?」
「こうすれば手ぶらで移動できるし楽なんだ」
「こりゃ驚いた……。こんなの見たことねえ。もしかして手ぶらで王都に行くってのもそういう理由だったのか?」
「まあね。めちゃくちゃなお金持ちってわけでもないし、現地で買い直すっていうのも難しいし」
地方から王都への上京で荷物を持って行かないというケースはないというわけではない。
お金さえあれば実家から移動させるよりも、現地で調達した方が楽だし故障リスクもないので、そうする者も多い。
ただし王都の方が物価は高いし、そもそも引越しでお金がかかる上にさらに費用が嵩むという点で金持ちにしかできないのだが。
「つくづく商人にならないのがもったいねえよなぁ……。こんなのチートだろ」
確かに商人にこの魔法があれば相場の差を狙った横流しだけで大金持ちになれそうだ。
まあ、あまりお金に執着はないので興味が湧かないというのが正直なところなのだが。
——そんな後片付けをしていると、太陽がだんだんと傾いてきた。
「今日中に街までつかないといけないんだっけ」
「おっと、そうだった。暗くなると魔物も増えてくるしな。そろそろ出るとしよう。乗ってくれ」
さっきの荷馬車に乗り込むと、すぐに再出発した。
◇
エルネスト領から王都に着くまでには約二日。
それまでにはまだ時間がある。
小説以外の娯楽がないというのは暇なもんだよなぁ。
誰でも買えるほど本が安いわけじゃないし、持っている本はすべて読破済み。
アニメもゲームも漫画もないので、ただただ揺られているだけ。
たまにおっさんと話すことで暇を潰していたが、さすがにネタが切れてくる。
「暇つぶしに剣でも作るか」
小声で呟き、頭の中で設計図を組み立てていく。
高等魔法学院は名前の通り魔法の学校なので、剣を持つ必要はない。
なので完全に趣味の範囲なのだが、他にやることもないので作っておくことにした。
何かで役に立つ時がくるかもしれないしな。
材料にするのは、さっきの邪竜の骨。
異空間内で邪竜を少し解体して、骨を抜き出す。
剣一本分に十分な量の骨を取り出し、即席の魔法で削ったり、圧縮したりして形作っていく。
思ったよりも邪竜の骨は強かった。
『ウィンド・スラッシュ』でスパスパ切れたのだが、細かな加工となると難しい。
それだけに多少時間がかかって、暇つぶしとして最適だった。
牙や鱗も合成し、硬性や鋭利性を上げていく。
実用上は魔法で強化しつつ使うのが剣というものだが——
「単体でも十分な強さだな」
漆黒の剣。
さすがは邪竜の素材というべきか、特殊なスキルや魔法を併用せずとも、単体でそこそこの魔物を相手にできそうなくらいのものに仕上がった。
初めての工作にしてはよくできたものだと我ながらに思う。
ついでに収納用の鞘も用意して、腰に下げておく。
必要なときに異空間から取り出したらよいじゃないか? と思われるかもしれない。
もちろん俺もそれは考えた。だが、それはしないことに決めた。
なぜなら、こっちの方がかっこいいからだ!
試し斬りしたいのだが、生憎近くに魔物がいない。
そのうちチャンスはあるだろうし、楽しみはとっておくというのも一興か。
しかし——そこそこ時間はかかったが、思ったより早かったな。半日でできてしまった。
二日丸々かけて完成すれば良い方だと考えていたのだが……。
どうせなら、もう少し工夫して強化してみようか。
そのための方法は、なんとなく頭の中にある。明日までに言語化して、すぐに作業に取り掛かれるよう準備するとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます