第22話:劣等賢者は強化する

 ◇


 二日目。

 今日の夜には王都につく予定で、今は何もない平原を移動中だ。


 昨日作った漆黒の剣と、邪竜から回収した魔石を横に並べた。

 魔石の使い方はアクセサリーとして身につけておくことで様々な特性の恩恵を受けるというもの。

 これ以外の使い方はない——というのが通説だ。


 だが、数千年前にいたと言われる高名な練金術士は、別の使い方をしたと言われている。

 錬金術士は魔石を肥料として活用しただけでなく、様々な伝説を残している。


 そのうちの一つが、あらゆる武器に魔石を埋め込み、その特性を承継したというもの。

 アクセサリーとして身に着けるよりも何倍も特性が強くなると言われている。


 これが伝説——御伽噺と呼ばれる所以は、現在では誰一人として再現できなかったということに尽きる。


「でも、理論上はできるんだよな……」


 魔石の特性だけを抽出し、剣に融合させれば同じことが実現できるはずなのだ。

 特性というのは、言わば魔物が持つ特殊な魔力。

 この魔力を『魔石』から他の『器』に移し替えると言えばわかりやすいか。


 魔石の特性書き換えや、魔力の指向性矯正の経験を組み合わせれば、できなくはないはずだ。

 失敗しても魔石が使い物にならなくなるような類のことではないし、ちょっと試してみよう。


 その前に、魔石の特性を書き換えておく。

 俺が選んだのは、『攻撃力上昇』『防御力上昇』『移動速度上昇』『攻撃速度上昇』『属性効果上昇』『生命力自動回復』『魔力自動回復』の七つ。


 まずは、魔石から特性を抽出——


 魔力を石から丁寧に剥がしていく。

 これにより、魔石はただの石になった。


 次に、剣と特性を融合させる——


 丁寧に縫合していくイメージで、移し替えていく。

 集中して作業すること一時間で全工程を終えた。


 結果は、成功。

 見た目上の変化はないと予想していたのだが、淡く光を発していた。


 そういえば剣の名前をまだ決めていなかったな。

 邪竜の素材で作った剣だし、ドラゴンソードとでもしておこう。


 鞘にドラゴンソードをしまうや否や、荷馬車が止まった。


「——魔物だ。囲まれている」


 運転していたおっさん商人はそう言うと、荷馬車を降りて剣を構えた。

 あまりに弱すぎて気にしていなかったが、確かに数十匹の魔物に囲まれているようだった。


 俺もゆっくりと降りて、目視で魔物を確認する。


 この程度なら『マナドレイン』で簡単に処理してしまえばいいのだが、どうせならドラゴンソードの試し斬りをしてみよう。


 魔物の種類は平原によくいるタイプで、ウルフ・ラビット・スライム・ゴーレムといった感じだ。

 この中で一番物理防御力が高いのはゴーレムだ。


 俺はゴーレムに向かって駆け出した。


「お、おい! 一人でいくのか!? っていうかお前さん魔法士じゃなかったのか!?」


「魔法士だけど、剣も使えるんだ」


 それにしてもこれじゃ魔法士なのか剣士なのかたしかによくわからないよな。

 魔法剣士ってところか?

 もうちょっとかっこいい呼び名があればいいんだが——


 そう言えば、転生前に賢者がどうとか言われたような覚えがある。

 賢者は一般的にウィザードとヒーラーの良いところどりをしたような職業のイメージだが、語感的には剣者と言えなくもない。


 こっちの方がかっこいいし、これからは聞かれたら賢者とでも名乗ることにしようか。


「ま、そんなことはともかく——」


 硬化魔法で剣を強化し、風属性の攻撃を準備。

 単なる風魔法じゃなく、風で静電気を発生させた電撃魔法だ。


 魔物で密集したエリアに、剣を一閃。


「あっ、俺やっちゃったか——?」


 剣で斬ったという感覚がまるでなかった。久しぶりに空振りしてしまったらしい。

 あれだけ練習したのに、攻撃を外してしまうなんてなんて失態だ。いくら魔法士とは言えこれは恥ずかしい。


 さて、気を取り直してもう一回。

 ——と、二度目の準備をしていたところ。


 スルっとゴーレムの身体が真っ二つに切り裂かれた。

 俺が狙った通りの場所だった。

 もしかして、外したんじゃなくて、切れ味が良すぎて斬った感覚がなかったってことなのか……?


 呆気にとられていると、それだけでは終わらなかった。

 弧を描いて俺たちを囲んでいた魔物たちの間で、電撃がどんどん広がっていき、その全てがワンパン。


 離れれば離れるほど電撃の効果は衰えるはずなのだが、この程度の魔物だと最後まで即死みたいだった。

 やれやれ、相手にとって不足がありすぎたが、とにかく切れ味が良いのだけは分かったので良しとするか。


「お前さん……剣もとんでもねえ腕なんだな。いったい何者なんだ……?」


 何者だと言われても、ただの転生者で辺境貴族の次男でしかないんだが——


「強いて言えば、賢者……かな」


 おっさん商人は当然この言葉を知っているはずがなく、首を傾げるのみだった。

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