第1話:劣等賢者は溺愛される
ぼくの名前はアレン・エルネスト。一歳でしゅ。
……じゃなくて、俺の名前はアレン・エルネストだ。一歳になる。
前世の記憶を受け継いでいる関係で、見た目は子供だが中身は立派な大人。さすがに幼児語は寒気がする。
この歳だと自分では何も動けないので、毎日が退屈だ。
暇すぎるので両親の会話から異世界の言葉をマスターし、断片的に色々なことを知った。
まず、俺が転生したのは剣と魔法があるファンタジー世界。
魔物や冒険者が普通にいる。フィクションみたいな話だが、これが現実だ。
俺は辺境貴族の次男として生まれた。
レオンという名前の兄がいるらしいが、かなり歳が離れているようで、領地を離れて学校に通っているらしい。
ちなみに、言葉は理解したので話そうと思えば話せるのだが、赤子がいきなりペラペラ話すと不自然だと思われるかもしれないので一応隠している。
「アレンは将来何になるんだろうなぁ。俺の息子ならやはり剣士に……」
「いいえ、アレンには魔法を勉強させるわ。だいたい、レオンが剣士の道に進んだでしょう?」
「レオンは勝手に剣を取った。俺が勧めたわけじゃない! ノーカウントだ!」
「なら私だってアレンには杖を取らせるわ!」
この親バカ二人は、毎日のように俺のことで言い争っている。
息子としては困ってしまうが、前世の実家は寂しい感じだっただけに新鮮な感じだ。少なくとも居心地が悪くはない。
「ねえ、アレンは何になりたいの? やっぱり魔法士よね? そうよね?」
母イリスが、俺に聞いてきた。もちろん返事を期待しているわけではない。
イリスはなかなかの美人で、金髪で、優しくて、胸が大きい。
その瞳に反射する俺は母親似で、自分で言うのもなんだが結構いい感じだ。
「男ならやっぱり剣士だよな。剣はロマンがあるぞぉ」
対して、父カルクスは東洋人っぽい黒髪黒目をしている。しかし顔はいかにも外人っぽい感じでどちらかというとイケてる方だがあまり俺とは似ていない。
しかし——どうしたものかな。
毎日聞かされているから、剣と魔法のどちらも一長一短であることを知っている。
剣は魔力消費が少なく、安定して高火力を出せる。その代わりに近接戦闘になってしまうし、同時に多数を相手にできないという弱点がある。
魔法は魔力消費量によって高火力にも低下力にもなる。範囲魔法が使えれば同時に多数を相手することもできるし、遠距離にも近距離にも対応できる。しかし、魔力切れを起こすと使い物にならない。
仮に最強の剣士と、最強の魔法士が戦えば、相討ちになるとのこと。
どちらを選んでも才能と努力次第で最強を目指せる。
だが——果たして、それは正解なのか……?
剣が強いことは分かっている。魔法が強いことも分かっている。
なら、もし両方を極めたら?
まだ一歳。
前世の知識を持つ状態で最初から本気を出せば、もしかしたら——
「どっちか一つを選ぶことなんてできない。俺は、剣と魔法の両方を極めたい」
「「!?」」
……あっ
やっちまった。間違って喋ってしまわないようにといつも気を付けていたのに……。
反応的に気づかれてる……よな?
「アレンが喋ったわ!?」
「い、一歳でここまで流暢に話せるなんて……この子は天才じゃないか!?」
あれ? 意外と怖がられてはいないみたいだ。
言葉を話せるくらい俺にとっては当たり前すぎるのだが……喜んでいいのだろうか。
「ねえアレン。もう一回言ってみて!」
「……剣と魔法の両方を極めたい」
「きゃあああああああああああ!!!!」
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
いちいち騒がしい両親である。
「それで、アレンは剣士と魔法使いどっちになりたいの!?」
「剣士だよな! そうだよな!」
興奮した様子で、二人とも食い気味に尋ねてくる。
さては……俺が話したってだけで喜んで内容聞いてなかったんじゃないか……?
「えっと……だから両方を……」
「きゃあああああ!!!!」
「アレンが別の言葉も喋ったああああ!!!!」
「夢が大きいのは良いことよ! お母さんが魔法を教えてあげるわ! 三歳になったらね!」
「剣のことなら俺に任せておけ! 三歳になったらたっぷりしごいてやろう!」
「あ、ありがとう……」
イリスは魔法が得意で、ケルカスは剣が得意という話は何度も聞いたことがある。
父と母で得意分野が違うことは、俺にとって幸運だった。
だって、それぞれから英才教育を受けられるのだから。
音楽の分野では、プロ入りする天才たちは皆遅くとも三歳までに始めると聞いたことがある。
それだけ柔軟な頭のうちになされる英才教育が将来に大きく影響するのだ。
俺としてはもう少し早くから剣と魔法に触れられるとベストだと思うんだが……。
まあ、自由に身体を動かせないんじゃ無理か。
教えてもらえる時期が来るまでの間に何かできることがあればやっておくことにしよう。
魔法ってイメージ的には数学とか科学を勉強しておくと良さそうな感じがする。
辺境とはいえ貴族の家なので、そこそこの数の本がある。
あれを三歳になるまでの間に読み切れば時間を有効活用できそうだ。
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