劣等賢者の学院無双 〜現代知識と努力チートで世界最強〜
蒼月浩二
第一章:幼年編
プロローグ:劣等賢者に転生する
朝九時出社。
昼休みは一時間。
そして今は深夜三時。
今日もデスクで眠ることになりそうだ。
「…………はぁ」
最後に休んだのは、たしか半年前の正月だけ。
これだけ働いても月給十八万円、ボーナスなし。
残業代? タイムカード? なにそれ美味しいの?
プシュ。
本日十本目となるブラックコーヒーをグビグビと飲む。
「あー……うめぇ」
就活に失敗して大学を卒業し、そのままニートになった。
履歴書に書けるような職歴はなく、でも肉体労働はしたくない。そんな俺には底辺プログラマー——いわゆるITドカタくらいしかなかった。
零細企業に何とか拾ってもらえたのが運の尽きだった。
入社翌日から来なくなる同僚の数は星の数ほど。俺はここで辞めたら一生負け続ける人生になると思って働き続けた。
出世コースだとおだてられて、一年で名ばかり管理職へ。
責任だけが増える結果になったわけだが。
もう疲れた。仕事だけじゃなく、生きることに。
「どこで間違えたんだろうな。やり直してぇよ……」
今思えば、高校時代にもっと勉強して偏差値の高い大学に入れば良かった。もっとコミュ力を磨けば良かった。諦めずに就活を続ければ良かった。
今は、サボリのツケを返済していることになる。
あの時サボった俺が悪いのはわかってる。
だけど、こんなに頑張ってるんだから少しくらい報われてもいいじゃないか。そろそろ完済だろうに——
ここ最近は毎日こんなことばかり考えている。
「コーヒー……コーヒ……」
ブラックコーヒーを飲むと仕事の能率が良くなるので、常に二十本ほどはストックしている。
あまり飲み過ぎるとカフェイン過多で身体には良くないらしいが、飲まずにやってられるかってもんだ。
本日十一本目のブラックコーヒーをグビグビやったところで、異変が起きた。
「頭が……痛い……」
万年頭痛持ちなので、今日もしっかりと鎮痛剤を飲んでいた。
それも、本来三錠しか飲んではいけないところを二倍の六錠も飲んでいる。それなのに頭が痛い。頭が割れてしまいそうな感じだった。
頭痛だけじゃなく、動悸も激しい。心臓がバクバクする。
目眩がしてきて、椅子に座っていても上下左右の感覚が分からなくなってきた。
ちょっと、無理をしすぎたか……。
というか、カフェインを摂りすぎてしまったのかもしれない。
以前にも飲み過ぎた時に経験がある。
対処法は、しばらく休むこと。
ひんやりとした床で横になる。
それから二、三分が経過した。
だが——気分は良くなるどころか、さらに悪化していた。
これは本格的にヤバイ気がする。救急車を呼んだ方がいいのか……?
でも、もし入院することになったら納品日に間に合わない。……社会人失格だ。
ここは社長に教わった気合と根性でなんとか——
そんなものでなんとかなるはずもなく、俺の視界はブラックアウトしてしまった。
あれから何時間経ったのだろうか。
——ここは?
気がつくと、真っ暗闇の空間にポツンと意識だけが浮いていた。
会社のオフィスではないみたいだ。
それどころか、身体すらない。波に揺られて流されている感覚だ。
ああ、俺は死んだのか。
直感的にそう思った。
《ああ……可哀想な青年よ》
どこからか、声が聞こえてきた。
近くに誰かいる様子はない。俺の魂に直接語りかけてくる感じだった。
機械が発する合成音声のような感じだが、声のトーンや話し方はなんとなく温かみがあった。
《我だけは、キミの努力を認めよう。来世では——幸せに生きられるように計らおう》
何を言ってるんだ?
いったい、こいつは誰なんだ……?
なんで、俺の事情を知っているような言い方をするんだ?
《残念ながら、同じ世界に転生することはできない。キミに相応しい新天地を用意しよう——》
俺の質問に答えろよ……!
いや、声に出せなければ伝わらないか。
《キミの来世は——『賢者』。世界最高峰の魔法士と世界最高峰の剣士の才能を持つ奇跡の存在である。しかし——それだけではキミの努力に見合わない。補正ボーナスを付けておこう。これは転生してのお楽しみだ》
なんか、賢者ってゲームで聞いたことがあるような気がするな。
それにしても、来生とか異世界とか意味のわからないことをいきなり言われても困る。
「お前は誰なんだ!? ここはどこなんだ……!」
あっ、声が出た。
俺の声が反響して、何重にもなって返ってくる。
《ほう……。我と会話ができるとはな。魔法がない世界に生まれながら、天性のセンスだけでここまで上り詰めるとは大したものだ。よいよい、答えよう。我は創造神。全宇宙の全人類を創造し、見通す存在よ。キミのとてつもない努力を我は評価している》
創造神……?
なんだその中二病みたいなキャラは。俺はそんなの信じな——
《キミは、これより新天地へ転生する。努力が報われる世界へ——》
俺は、何かに吸い込まれるような感覚を覚えた。
創造神と名乗る声が、どんどん遠くに離れて行く。
だんだんと瞼が重くなってきた。
まだ聞きたいことは山ほどあるのに——。
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