第6話 手なんか出すなよ、ジェントルマン
少女の大きくエキゾチックな眼と柔らかな笑顔に惹かれ、思わず空いていた横の椅子を指さした。気に入った子はいつでも自由に席まで呼べるシステムになっている。
ヨシの僅かな指の動きを見た女の子は、ステージの端から向こう側に消えた。ビキニの上からショートスカートだけ穿いてやって来ると、恥ずかしそうな顔で前に立った。
「ぅお!」
その顔を間近で見たヨシの体内で、何かが瞬間沸騰した!
カールしてふんわりとサイドに流れる髪や、細いアイシャドウが青く光るその容貌は完璧。傍で見ても全く期待を裏切らないものだった。
すぐ椅子を勧めたが、冷静をよそおい、ヨシは自分の興奮を隠すようにして話し掛けた。
「名前は何て言うんだ?」
「トキよ、あなたは?」
「ヨシ」
「ヨシー」
赤くかわいい唇が、特徴の有るイントネーションで言った。透き通るように澄んだ声をしている。
トキは管理ナンバー以外のニックネームのはずだ。もっともその通称名でさえ、なぜか届け出る事になっているのだが。
「歳は?」
「十……」
「ん?」
聞き取りにくい発音なので聞き返すと、手のひらに指先で数字を書いて見せた。
斜め前の椅子に腰を下ろした彼女の膝が、ヨシの足の内側に当たっている。もちろんそうなるように、自分の足の位置を微調整している。だてにエロゲ道を修行してはいない。
柔らかそうなボディライン。
深いV型の胸元、ボインがセクシー!
ゲームみたいに、むにゅなんて絶対出来ない。
ヨシは小さな声で呪文を唱えた。
「見えない、見えない、おっぱいなんか見えない」
「一つ下なのか。十九歳には見えないな、そのおっぱいなんか」
「え?」
「あ、いや、ちがった!」
舌がもつれそうになったヨシ。
「あの、かわいいって言ったんだよ」
トキの目が至近距離からじっとヨシを見つめている。
「おれは君のダンスが気に入ったんだ」
「あれでいいの?」
「――?」
「みんながもっと腰を振れって」
トキは恥じらいだような笑みを浮かべ下を向いた。
(そういう態度をカマトトって言うらしいよ)
(黙れ)
(まったく、なんでこんなことしなきゃいけないのよ)
男たちの前で裸同然の衣装を着て身体を動かすように指示された。これに何の意味があるのか全く分からない。
(面白いじゃない)
片方は盛んに面白がっている。
(腰の振り方がよかったからこの男の子は気にいったみたい)
(あっそう)
短いスカートから、スラリと伸びる太ももがまぶしい!
ヨシはまたつぶやいた。
「だめだぞ、手なんか出すなよ、ジェントルマン」
「え、なに?」
「あ、いや、別に」
鋭い、この子は可愛い顔をしてめちゃ鋭い。
というか、たぶんこの反応が普通なんだろう。若い女の子の前で物欲しげな顔をした男がだよ、時々ミニスカートの太ももをチラッと見てるんだ。その上じっと黙っていたら、そりゃあまずいに決まっている。この場合、女の子にとって男の沈黙は金どころか泥だ。
「あの……」
だが次の言葉が出てこない。エロゲマニアで無口なヨシが、いきなりジェントルマンな会話なんて無理だった。
「外に出よう」
ヨシは迷わずトキを誘った。この子と出会えて最高にラッキーな夜だ。
ゲームでは絶対できなかった美少女との外出が今から始まるんだ!
いくらナナワールドでも、なかなか好みに合ったパーフェクトな相手は見つからない。
店のスタッフを呼び、ドリンクの支払いとは別に六百ビートを渡す。店ごとで決まっている金額さえ出せば、好きな女の子を一晩だけステージの拘束から解放することができる。後はこの子と二人、どこに行こうと何をしようと自由恋愛の世界だ。
「じゃあ、着替えてくるから待っていて」
「ああ」
「男の人の前で脱いではいけないの。だからここで着替えは無理なのよ」
「…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます