おれが森を歩いていると

七面鳥の丸焼きが話し掛けて来た

「わたしって、まだ生きていますか?」

おれは黙り込んだ

どうも七面鳥の丸焼きらしきものが

おれに向かって話し掛けているようなのだが

頭が狂ってしまったのだろうか?

しかしそれを正しく教えてくれる者はいない

反応した時点でおれの負けだとわかっていたから

おれは心の中で思ったことをけして口にはしなかった

おれは日曜日に森で迷子になった

永遠に家に戻れない予感でいっぱいだった

見覚えのある場所を見たかったが

視界の何もかもが不安を誘うのだ

あの庭の朽ち果てた樹々が恋しかった

七面鳥の丸焼きはおれの後ろをついて来た

「わたしって、いい匂いですか?」

振り向かずに前へ

夜になると頭上を星が覆い尽くした

その相関関係を推測する

おれと、星と、七面鳥

死ぬのは恐くなかった

そう思い込みたいだけなのかもしれなかった

七面鳥は死んでいるくせに一緒に空を見上げて

何を思っているんだか知らないが

それを眺めるおれの気持ちなんてほったらかし状態

おれは狂っているのだろうな

いやそうではない

狂っているのはこの世界の方だ

足で踏んで確かにそこにあると勘違いしている地面

それは揺らぐことのない確かなものなんかではけしてなかった


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